第３６話 ヨット大衆化計画
| 日本はヨットに関する限り後進国です。それはほんの一部の人達ができる遊びと考えて いるからです。ヨットに対する認識がそれを現実化しています。先進国である欧米では どうか、という事になりますが、完璧とは言わないまでも、少なくとも普及率は高い。 こうでなければならない、という考え方がたくさんあればある程、自分自身を遠ざける事 になります。３０フィートはほしい、広いキャビンがほしい、独立トイレ、温水、ファーラー、 ラット仕様が良い、条件をつければつける程、ヨットが自分から離れていく。それを見て いる周りの人達はヨットなんてしようとは思わなくなる。極端な言い方をすれば、船体と セールさえあればヨットを楽しむ事はできる。あれも、これもと考えているうちに時間は どんどん過ぎて、チャンスを逃す事にもなりかねません。 ヨット先進国には、様々なヨットがあります。ディンギーからメガヨットまで、遊び方は様々 です。そして、それぞれのサイズで、それぞれの人達が自分の好きなように楽しんでい ます。マリーナが少ないから、係留料が高いから、こういう事は普及の妨げの一因では あるかもしれませんが、最大の理由は我々の考え方ではないでしょうか。それはヨットは こうでなければならないという理由が多過ぎる事です。 後進国にいきなり、先進国から最新の機械が導入された。これを使えば、飛躍的に作業 効率が高まる。しかし、後進国はこの機械を効率良く使う事ができない。それで無駄な物 となって、錆びて放置されてしまう。これと良く似た状況ではないかと思うのです。先進国 から最新のヨットが導入される。でも、このヨットでどのように遊んだらいいか解らない。 先進国と同じライフスタイルではありませんから、自分達のライフスタイルの中にどうやって 溶けこませ、本当の意味で自分の物にするかが解らない。それで、最新ヨットはやがて放置 されてしまう。 最も大切な事はヨットを自分達のライフスタイルに合ったやり方で、溶けこませる事です。 それぞれの人達が自分流を見つけて、多いに楽しむ事です。日本は車に関しては先進国 です。ですから、様々な車があります。軽からベンツやフェラーリまで、種類は豊富です。 そして、それぞれが買える車に、好きな車に乗っている。でも、ヨットは極端かもしれませんが いきなり始める人がベンツじゃなきゃ、と言っているようなもの。それでは楽しめない。 それで、もっと普及を促す為に、小型ヨットを見なおす事をお奨めします。もっと、もっと小型ヨット が増えてしかるべきと思うのです。小型ヨットは大型に比べると窮屈かもしれない。装備も充分 では無いかもしれない。でも、大型には無いメリットもあります。それは気軽にセーリングが、い つでも楽しめるという事です。これは大きなメリットです。日本人は忙しい。その忙しい合間に セーリングを楽しむには、小型ヨットで近場をスイスイ走りまわる方法が一番良いと思うのです。 こうやってヨットは自分流にアレンジされ、自分のライフスタイルに溶け込みます。ヨットの事も 海の事も、自然の事も自分のライフスタイルに溶け込む。そうすると、自分がどんな遊び方が 最も楽しいのかが解ってくる。その時に必要なら大型ヨットにすれば良い。或いは、自分には 小型ヨットが合っているという結論になるかもしれません。 小型と言っても馬鹿にしちゃいけません。美しいヨットを自由自在に操り、セーリングする姿は 誰もが羨む格好良さがあります。ヨットそのものを、波を、風を、自然を身近に感じる事ができる。 身近に感じれるから、自分のスタイルがわかってくる。 大型ヨットを自分のライフスタイルに溶け込ませるには、小型ヨットと同じではいけません。本当は クルーが居るとか居ないとか、そういう問題では無いと思うのです。大きなキャビンを使いこなす 必要があると思うのです。それは仲間を大勢呼ぶとかいう問題では無く、例え自分一人だったと しても、広いキャビンに溶けこむこと、キャビン自体を楽しむ事、ヨットが動いていようがいまいが、 そこに居て楽しめる事ではないでしょうか。つまり、大型ヨットにはセーリングという機能以外に 別荘的に充分楽しめる気持ちが無いといけません。心からくつろげる気持ちが必要です。それに 制御する大きな気持ちのパワーが必要です。 小型ヨットはセーリングがメインで別荘感覚はサブ、大型は別荘感覚がメインでセーリングがサブ それで多くの人達がどうせ乗るなら別荘にもなるし、という感覚が強くなる。ところが、自分の中に 別荘感覚が無い。おまけにセーリングもままならなくなるという事になってくる。別荘感覚を養うに は小型ヨットで充分にセーリングを堪能することが必要なのではないかと思うのです。 本物の別荘を持っている方は、本当に楽しむには、そこにある別荘の周りにある物を楽しむ事が できる人ではないでしょうか。別荘自体はただの箱ですから、箱は自宅にもある。ヨットを別荘代 わりに楽しむには、その周りを楽しむ心が必要なのではないでしょうか。それが無いと行かなく なると思うのです。事実、マリーナには誰も来ない。 そこで、セーリングを堪能する為に、ヨットを身近に感じる為に、将来大型ヨットを楽しむ為に、今、 小型ヨットを堪能してはいかがでしょうか。小型だから入門用とか、練習の為とか思ってはいけま せん。小型ヨットはセーリングそのものを楽しむ為にあるのです。だから、初心者からベテランまで 自分のライフスタイルに合ったヨットとして楽しむ事ができる。こういう意識が定着すれば、ヨットは より多くの人達が楽しめるようになる。マリーナはにぎやかになり、オーナー同士のコミュニケー ションも高まり、活気が出てくる。となりのヨットのオーナーに合った事が無いなんて事は、今は珍 しくもなんとも無い。 隣の大型ヨットを羨む必要なんて無い。自分とはライフスタイルが違うだけ、皆違う。要は自分が 楽しんでいるかどうかだけです。 |