第47話 10 MILES

海図を広げてみましょう。10マイルという距離はどの程度あるでしょうか。エンジンを全く
使わずに、セーリングだけで走る。半径10マイルは約18km、セーリングには結構な
距離です。目的方向に一直線なら、仮に4ノット平均として2時間半、でも、帰りが上り
なら、同じスピードと仮定しても、ジグザグにいきますので、数学的に計算すると、4割増し
の14マイルの距離を走る。そうすると3時間半かかります。往復で6時間。シングルハンド
としてはかなりの時間ですね。

日常のシングルハンドとして、アッパーリミットを半径10マイル程度と考えて、この範囲を
走りまわる。かなりの範囲があると思います。実際は直線で行く事も無いし、スピードも
もっとあるかもしれないし、吹かないかもしれない。いずれにしろ、とりあえずデイセーリング
を日常として半径10マイルを知りつくす。この10マイルの中に様々なドラマが生まれます。

季節の移り変わり、突然の雨、風の変化、大時化もあれば、全く吹かない事もある。これら
全てが10マイルの中にある。快適も辛さも、穏やかも激しさも、全てがここにある。引退した
ら日本一周を計画するも良し。でも、今はこの10マイルを走り尽くしたらいかがでしょうか。

往復20マイルですから、風向きさえ良くて、風もそこそこ吹けば、直線にして20マイル。
5ノットで走れれば、わずか4時間。それならもうちょっと足を伸ばして6時間走れば30マイル
日本一周だって、この積み重ねです。もっと走れる事もあれば、走れない事もある。時間さえ
たっぷりあれば、のんびりと行ける。10マイルを走り尽くした人はヨットとは既に一体となって
いる。後は、外の知識を得るだけです。船の事は解っている。たまに、遠くに行く事より、近場
の10マイル圏内を頻繁に帆走し尽くす事の方が、先々遠くに行くにしても役立つのではないで
しょうか。

10マイル圏内を自由自在に走り回るにはどんなヨットが良いでしょうか。もちろん、どんなヨット
でも良いのですが、まずは、自然を知る為に、自分のヨットを知る為に、小型艇をお奨めします。
小型艇は波や風の影響が大型艇より影響が大きくなる。これをマイナスと見るのでは無く、プラス
と見ます。つまり、より敏感に感じる事ができるのです。時化てくると確かにつらい。でも、これが
延々と続くわけでも無く、そこから引き返せば、ちゃんと帰って来れる。遠くても、10マイル圏内に
居るのですから。10マイル圏内に全てがあるのです。デイセーリングとして、10マイル圏内を走る
には大型艇である必要は無い。大型艇はもっと遠くに行くのに相応しい。何日も走るには小型艇
には辛いものがある。だから、大型艇の方が楽なのです。でも、何日も走る人は現役で仕事して
いる方々にはなかなか難しい。時間が取れない。取れないのでエンジンで走る。そういう事になる
ようです。この事はかえってヨットのエッセンスを見逃しているような気がするのですが。

だから、現役の時は小型ヨットで10マイルを走り、引退したら、ロングを走るに楽なヨットにする。
初心者の方がどうせ買うなら、買い替えをしなくて良いように、予算の許す限り大きめにするという
のはあまり感心できません。引退するまでの数年間、10マイルを目指して下さい。既に引退された
方も、できれば最初の数年は同じ10マイルを目指し、それから買い換えてはどうでしょうか。

そして、70歳を超えて、また再び10マイルに戻ってくる。のんびりと、近場でエッセンスを楽しみたく
なる。

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