第92話 ファーリングメイン

最近の新艇を見ますと、その多くがメインセールをファーラーにしています。より容易な
セーリングを可能にする便利さという意味では自然の流れかもしれません。私も以前
にそうなっていくだろうと書いた事があります。さらに、コクピットドジャー、ビミニトップ
をつけ、快適なセーリングを目指します。キャビンは広く、コクピットも広く、温水が出て
冷蔵庫があって、これにやがては殆どのヨットにエアコンや電動ウィンチが付くようにな
るでしょう。これが人の求める快適さであり、便利さでもある。

一方で、デンマークのノルディックフォークと出会い、もうひとつのヨットのあり方を知りま
した。私を説得したのは、ミスターフォークボートと呼ばれるような方です。このヨットの
欧米での広がりはただものでは無いと感じた。これが一部のマニアックな方々の集まり
なら、たいした事はありません。でも、そうでは無く、一般的な広がりを見せている。
アメリカのアレリオンも同じです。時代に逆行するような動きは何なのか。そういう事を
数ヶ月の間に、ミスターフォークボートから教えられました。そして、実際に乗って感じま
した。

一体何の為にヨットに乗るのか。みんな快適さを考えて、いろんな装備をつけられるのだ
と思います。至極当然と言いますか、普通の考え方です。でも、もう少し深く考えてみて
下さい。人が何かをしたいと思う時、ただ、便利さと快適さを求めているのでしょうか?
便利で快適であれば、誰でも満足するのでしょうか?便利になればなる程、しなければ
ならない作業がひとつづつ減り、便利さを感じます。これが自然の流れかもしれません。
でも、ヨットに関するなら、ちょっと違うような気がします。

ヨットにそれ程の強い思いがあるわけでは無い方々も多いと思います。家族や仲間で
海を楽しみたい。爽やかな、優雅な、セーリングを楽しみたい。速く無くても良い、たまに
遠くへ出かければ面白そうだ。そういう使い方も有りだと思います。でも、この使い方で
いくなら、そうですね、年に数回しか乗らなくなると思います。最初は物珍しさもあり、良く
乗るでしょう。でも、そのうち乗らなくなるのが。殆どの方々の現状です。では、欧米では
これが違うのか?といいますと、違いますね。同じヨットなのに、彼らの使い方は違う。
それはマリーナに来る回数が多い、それでキャビンで過ごす時間も多い、船に泊まる事も
多い。来る回数が多ければ、近場のセーリングも多い。来るたびにセーリングしている
わけではありません。動かない事も多い。しかし、彼らはキャビンで過ごすのが好きなの
です。

こういう意味では、日本とは全く違います。ヨットに来る時は乗る時だけ、という方々が
殆どですから、天候具合によっては来ないし、他に用事もある。そうなると乗る回数は
ぐんと少なくなる。あまり乗らないので、船底は汚れ、故障も多い、そうすると余計乗ら
ない。これが現状です。

欧米では違ったグループの方々がおられます。それはセーリングを主体にされる方々で
す。キャビンは二の次、まず第一にセーリングを楽しむと言う事が主体となります。そうす
るとヨットに関する考え方も変わってくる。いかに、楽にでは無く、いかに面白いセーリング
をするか。これが大前提です。そうすると、おのずと、選ぶヨットのタイプも変わってくる。
キャビンが小さいからといって、キャビンで過ごさないわけではありません。狭いキャビン
でも楽しんでしまう。そういうキャンプ的な遊びを、不便さを楽しんでしまう。不便を快適
にする事によって、セーリングの面白さを、気軽さを減らそうとは思わないのです。日本で
も実際、ヨットをしょっちゅう楽しんでおられる少数の方々を見ますと、もちろん、キャビンで
過ごしたり、宴会もされますが、その中心にセーリングを楽しむという姿勢があります。

欧米人のように、キャビンで過ごすのができないなら、セーリングを楽しんでいただきたい。
頭で想像すると、セールで、ただ、行って、帰ってくるだけのようにしか想像できないでしょう。
それが全く違うのです。実際、1シーズンでも、セーリング集中してみていただきたい。きっと
その中に、今まで感じた事の無い、素晴らしい感覚を得られると思います。それが、求めている
ものです。

今、ヨットを再製しています。このヨットを内外ともピカピカに仕上げ様と思っていますが、いっそ
のこと、最低限の装備のみにしようかとさえ思っています。照明無し、航海灯無し、だからバッ
テリー無し、船外機で、ビルジの心配も無い。でも、セーリング装備は充実させます。
照明は夜間泊まらないので要らない。航海灯も夜間航行しないので要らない。GPSだっ携帯
用があり、照明だってキャンプ用ランプがあり、航海灯だって、いざという時は緊急用の電池
で動く航海灯がある。こうやっていくと、何も心配要らない。バッテリーあがりも、スタンチューブ
も、何も心配無い。ぱっと来て、さ-っと乗って、さっと帰る。気軽なセーリングができます。
ギャレーも家庭で使う簡易のガスコンロがあるじゃないですか。そんな事より、いかに安定性
の高いヨットが面白いか。それを多くの方々にしってもらいたいと思います。この気軽さが、どん
なにマリンライフを変えるか、想像できるでしょうか?自転車でサイクリング行くのに、たいそう
な事は考えません。このサイクリングの気軽さで、セーリングを楽しめるのです。セーリングに
全てを求めない。生活の一部に過ぎないのです。映画を見に行くが如く、ボーリングをしに行く
が如く、ドライブに行くが如く、もっともっと気軽に、構えず、さらりとセーリングに行く。美しいヨット
で、そんな気軽ささえ持てば、ヨットのエッセンスは実に簡単に手に入るのです。

それでも、選ぶ時は、あれもあれば便利、これもいざという時は必要かな、どうせ買うなら、つけて
おきたいと思うのが人情です。それが楽しいと感じる事もある。それは良く解ります。でも、それら
は使わない物ばかりである事が多いのです。どうしても必要ならば、後からでもいくらでもつけら
れるようになっています。

今はジブファーラーは当たり前になりました。でも、小さなジブの場合、ちょっとセールを上げる事が
そんなに面倒でしょうか?決して、反対は致しませんが、あれも、これも面倒なら、最初からヨット
など乗らない事が一番楽なのです。乗りたい時は客人として、誰かに乗せてもらえば良い。
自分が動くひとつひとつの行動が、喜びを与えるものです。野球もサッカーもバスケットも、ゴルフも
自分がプレーするから面白いのです。同じ野球でも、ゲーム中に1回も球が飛んでこないより、飛ん
できて、キャッチしたり、ファーストに送球してアウトにしたり、そういう自分のプレーがあった方が
面白いと思いませんか?見ているより、ずっと面白い。ヨットは見てて面白いものではありません。
ヨットはプレーしないと面白く無いものです。ならば、プレーしましょうよ。どうして便利ばかり追うのか
追えば追うほど、自分のプレーは減り、その分、面白みにかけてくるのです。すべてを自力でとは言
いませんが、できる範囲で自分でしましょう。少しでも多く自分でしましょう。すると確実にヨットは、
その行為に反応してくれます。これが自然とヨットと自分のハーモニーではないですか。そのハーモ
ニーがピタット合った時、最高のセーリング感覚がわきあがってきます。これがセーリングの醍醐味
だと思うのです。長い文章になってしまいました。

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