第十八話 一杯のコーヒー

セーリングに夢中になって走らせて帰ってくる。セーリングは緊張感で一杯です。この緊張感は危険とかという意味では無く、神経が集中して、夢中になっている状態です。強風なら、だれもが緊張します。微風なら、緩みます。それでも、微風用セールなんかあげて、少し緊張感を創る事もできる。緊張は集中です。心地良い緊張感です。本当は風速には関係無く、集中度の問題です。

そんなセーリングをして帰ってきた時、コクピットでいただく一杯のコーヒーが実に美味い。これは緊張に対する緩和です。セーリングの緊張に対して、この緩和が実に楽しい。結局、緊張と緩和は持ちつ持たれつの関係にある思います。

一般的に、緩和の方をいろいろ考えます。楽しい事です。ピクニックとか、宴会とか、別荘とか。しかし、問題は、緩和だけでは不十分で、長い目で見ますと、楽しさが薄れてきて、頻度が落ちて、そのうち来なくなるのではないでしょうか?

かと言って、緊張感だけだと、疲れてくるかもしれない。ですから、緊張と言っても、適度な緊張と、それに対する緩和を持ってくる。コーヒー一杯でも緩和を楽しめる。場合によっては、とてつもなく美味しく感じます。

2〜3時間のセーリングは、緊張感を維持していくに充分な長さであり、集中したセーリングを楽しむに丁度良いかと思います。この短い時間なんですから、意識的にも集中して走らせようと思っても良いかもしれない。もちろん、自分のペースです。それで、セーリングの理屈を考え、観察して、云々とやります。これで、たっぷりその日のセーリングを味わって帰ります。ここからは、緩和の時間です。コクピットに座って、ゆったりした感じを味わいます。セーリングが集中していればいる程、この緩和の時間を楽しめるかと思います。

緊張は何も、スポーツしている時とは限らないと思います。散歩セーリングであっても、軽い緊張感があります。一日のセーリングは、こういう感じだと思いますが、それが長期間に渡る場合でも、やはり緊張と緩和をアレンジしておくと良いと思います。人はどちらかと言うと、ゆったりする方ばかりを考えますから、どうやって、どこに緊張感を持つかとは考えません。でも、その緊張をどうするかが重要になると思います。緊張さえアレンジできれば、緩和は自然についてくる。それで、ヨットですから、緊張はセーリングでと思うわけです。

何かを楽しもうとする時、そこに楽しさだけを求めるとしたら、それは一時のレジャー的な遊びになり、継続して頻繁にする事は無いと思います。でも、ある事を継続して楽しもうとする時、そこには緊張が無ければならないと考えます。緊張すれば、その後、必ず緩和がやってくる。だから、緩和に何をしようかと考える必要も無いぐらいです。継続には必ず緊張感が必要だと思います。それが無いから継続できないと思います。緊張はワクワクして、夢中になる事です。

ゴルフを楽しみたかったら、プレーに緊張します。だれもが集中します。そして、プレー後の緩和は誰でも楽しめる。でも、プレーに集中できなかったら、緩和も楽しめないのではないかと思います。また、たまに、温泉に行くのは緩和です。それはそれで良い。でも、もし、頻繁に温泉に行くようになったら、きっと、温泉の効能とか、いろんな事に気がつくようになって、批評家の様な目を持つようになると思います。いろんな事に気づく、それが緊張感だと思います。

ヨットで、セーリング以外の何か楽しい事と考える場合、集中セーリングさえしておけば、何でも楽しめる。宴会もピクニックもクルージングも、メリハリが効きますから。だから、セーリング以外について、どう楽しもうかと考えなくても良いかもしれない。緊張の後は自然に考えつくものではないでしょうか?人は緩和ばかり考えますから。

楽しさって、緩和だけでは成立しにくいんじゃないかと思います。緊張あっての事で、その対比として緩和が楽しい。そして全体を含めて、緊張と緩和の両方で、面白いとなると思う次第です。それで、時に、極上のセールフィーリングもやってくる。一杯のコーヒーが、さらに美味しくなります。

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