第二十一話 バラスト比の本当の意味



      
誰もが安定性が高い方が良いと言います。そして、一般的にはバラスト比が高い方が安定性が高いと考えます。しかし、本当にそうでしょうか? バラスト比は全体重量である排水量におけるバラスト重量の占める割合です(バラスト重量÷排水量)。この割合(%)が高い方が安定性が高い様に見えます。しかし、我々が言う安定性は大抵はセーリング中における安定性ですが、これにはセール面積が考慮されていません。

デイセーラーではだいたい40%前後ぐらいかそれ以上のバラスト比です。例えば、3,000kgの排水量においてバラスト重量が1,200kgならバラスト比40%です。このヨットに40uのセールを設置するのと、50uのセールを設置するのと、セーリング時の安定性は同じでしょうか? 

こう考えますと、いわゆるバラスト比はセーリング中の安定性には直接的関係は無い。つまり、そのヨットがひっくり返った時に起き上がろうとする復元力という事になります。この二つのヨットは復元力としては同じです。でも、現実において、沿岸でセーリングしている場合、ひっくり返った時の復元力より、セーリング中の安定性の方が重要なのではないでしょうか。大海を渡るような時は大波で転覆する事はあっても、沿岸セーリングでそれは無い。

つまり、セーリング中の安定性はバラスト比では解らないという事になります。では何が重要かと考えますと、キールデザインとバラストの絶対重量対セール面積だと思います。キールデザインは、例えば、T字型の深い、最下部に重量を集中させたバルブキールと一般的なキールデザインとでは同じ重量でも効果が異なります。従って、デザインが違うもの同士を比較する事には無理があるので、なかなか難しいのですが、少なくとも同一ジャンルのヨット同士なら、バラストの絶対重量は参考にはなると思います。

キールが同じデザインの場合なら、バラスト重量をセール面積で割って比較しても良いかと思います。上記の例で言えば、1,200kg ÷ 40u = 30kg 1uあたり30kgのバラスト重量で支えています。もうひとつは、1,200kg ÷ 50u = 24kg 1uあたり24kgという事になり、安定性という点で言えば、前者の方が高いという事になります。もちろん、船体自体の重心の高さもありますので、同じジャンル同士のヨットで計算するならば、参考になると思います。

ただ、バラスト重量が重く、尚且つスピードを求めるとバラスト比が高くなるのも事実です。何故なら、船体重量の軽量化を図るからです。でも、バラスト比だけではセーリング時の安定性は計れない。よって、バラスト絶対重量、排水量、セール面積の各データで比較して考える必要があります。もちろん、デザインも。

さて、もうひとつ。安定性が高い方が良いというのは本当にそうでしょうか? 前記の例で言えば、前者は後者より安定性が高い。しかし、後者はそのヨットがフルセールで走れる風速下においては、前者より速いです。これは良い悪いの問題では無く、ただ、風が強くなっていきますと、後者の方が先にリーフしなければならなくなりますが、セーリングにおけるスポーツ性に対する考え方の違いであって、フルセールでのスピードとその時の風速をどう考えるか次第では無いでしょうか? 

もちろん、安定性は高い方が良い。それは同じセール面積ならバラスト重量は重い方が良いという事になりますが、バラスト重量は排水量に含まれますから、全体のスピードに関係してくる。ヨットは全てバランスの問題になりますから、できるだけ数値データで比較して考える事が必要になると思います。

さて、今年も今日が最後です。皆さん、良いお年をお迎えください。

        

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