第二話 セーリング重視



      
セーリングには人工的な音がありません。エンジン音が無い。風と波の音。それに、風が顔に触れる感触だけです。当たり前ではあるんですが、この人工音が無いうえでのスピード感というのは、想像以上に気持ちが良いものです。さらに、デイセーラーには特徴的な味わいがあります。

デイセーラーのサイドデッキは非常に低く、桟橋から階段を一段上がったぐらいの感じです。という事は当然、コクピットに座った時、海面が近い。この事はセールフィーリングに大きく作用します。手を伸ばせば、海面に手が届くぐらい。流れる海面が、よりリアルなスピードを感じさせてくれます。

そして、船体自体の重心が低いうえに、多くのデイセーラーのバラスト比は40%前後あり、その安定性が伺えます。フリーボードが低いからと言って、何も心配は要りません。ヒールする時だって、サイドデッキを海水が洗うなんて殆ど無いし、この安定感が信頼感になると思います。だから、ライフラインさえ必要としないんです。

信頼感と言えば、この安定感の他、波に当たる船体の感じなんかもこれに繋がってくると思います。強固に建造された船体は、この信頼性に関わるし、さらに、セーリングに滑らかさを感じさせてくれます。そこにかちっと設置された舵があり、滑らかな動きで、波を感じる事ができる。

セーリングを重視するという事は、そういう操作感、セールフィーリングを大事にする事だと思います。そのうえでスピードがある。スピードはエンジンであるセールと、燃料である風との共同で造りだされるものです。そこに自分の知識と技術も加わります。セールと風のバランスをどう取るかを遊ぶ事になります。という事は、自分の操作次第でセーリングも変わります。だから面白いんだろうと思います。ただ強い風が吹いたから速かった、微風だから遅かった、そんな単純なセーリングでは無いという事になり、それに応じて味わいも変わってきます。

微軽風は微軽風のセーリングを味わい、中風も強風も、それぞれのセーリングの味わいを得る。そこに自分の技術で微妙な変化を味わい、ヨットの造りの質を味わう。セーリングを重視すると、いろんなセーリングに出会う事ができます。頭脳は考え、心は感じます。この両方のバランスを楽しみます。

        

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