第71話 目的と手段

ヨットを始める時は、ヨットそのものが目的でした。操船できるようになる事、うまくなる事
そしてセーリングを味わう事が目的でした。ところが、それがだんだんできるようになると
何時の間にか、ヨットは手段になってしまうのです。何かを得たいという目的が出てきて
その為にヨットを使うという具合です。他のスポーツはそういう事は無いようです。野球を
する人は最初からプレーが目的ですし、その後も変わらない。ところがヨットは変わってしま
うようです。

遠くへ行きたい、大勢で宴会をする、そういう事が目的となり、その目的を達成する為に
ヨットがある。そういう事でヨットを有効に使っているように見えますが、実際は段段使わなく
なる傾向にあります。何故なら、毎週毎週宴会ばかりでは飽きるし、毎週毎週遠くへは
行けません。そうすると、目的が強烈な物で無い限り、ヨットを使う事は無くなります。
あの島へ行きたい。それが強い願望であれば、行けます。でも行けば、また次の別の
島に行きたいと強烈に思わなければ、ヨットは不要となります。みんなで楽しく酒でも飲
んでクルージングしたい。それがいつもそう思わない限り、ヨットを使う事は無いのです。
ヨットが目的であった時は、ヨットそのものを楽しんだと思います。島に渡らなくても、酒を
飲まなくても、楽しかったと思います。でも、ある程度できるようになると、やがてヨットは
手段となり、別の目的が出てくる。これはこれで悪い事では無いと思います。でも、ヨット
以外だけを目的にもつと、ヨットはそれ程必要では無くなります。

釣りをする為にボートを買う人が居ます。彼の目的は最初からボートでは無く、釣りです。
強烈に釣りをしたいという目的があるからこそ、ボートは良く使われます。これはこれで
良いのです。でも、ヨットに関する限り、ちょっと違うと思うのです。宴会をしたいと思って
ヨットを買うでしょうか?あの島に渡ってみたいと思ってヨットを買う人は居るかもしれませ
ん。でも、渡ってしまえば終わりです。次から次へ島を渡り歩く。これはこれでヨットが生き
ます。そういう方は日本一周や世界一周をするかもしれません。でも、日常において、ウィ
ークエンドにおいて、そうそうはできないものです。

ヨットが目的から手段に代わった時、ヨットはそれ程使うものでは無くなりました。ヨットが
目的あった時、乗りたくてたまらなかった。そうではないでしょうか?ヨットは深いものです
極める事はできません。それなら、ヨットを目的にして、もっとうまくなろうとすれば、ヨット
は使える物です。乗る事が目的です。その為にメインテナンスします。その為に、たまに
宴会をします。その為にたまに島に渡ります。何をして遊んでいても、日常はヨットが目的
なら、高価なヨットが係留されたままになる事は無いのでは無いでしょうか?

乗ることが目的なら、セーリングが楽しい物、エキサイティングな物、緊張する時もあるが
トータルで楽しい物でなければなりません。その第一歩として、いつでも気軽に出せる
環境を作っておく事は大切だと思います。何度も言っています通り、クルーをあてにしない
一人でも出せる。短時間でも出そうという気軽さが持てる。いつも整備されていて、上々
のコンディションを保つ。そうすれば、自分が思い立った時にいつでも出せる。

日常は誰でも忙しい。引退しても忙しかったりします。かみさんをいつもほっとけない、家
の庭の草むしりもしなきゃ、日曜大工もする。そんな中で、ちょっとあいた時間に気軽に
セーリングに出せる状況作りは、日頃から、そういう事を意識して準備しておかなければ
なりません。セーリングが目的なら、自然にそうするものです。そして、時には、かみさん
をセーリングに誘い、仲間を誘い、めりはりをつけていく。

目的はセーリングです。セーリングは目の前でできる。目の前のセーリングでも毎日状況が
変わる。自分さえその気になれば、同じ場所で、いろんな変化を楽しむ事ができます。
こういう環境を作る為には、シングルハンドデイセーリングを目的にするのが最も良い方法
だと思います。

同じシングルハンドなら、小さければ良いというより、どうでなら美しいヨットに乗りたい。
格好良く乗りたい。シングルでもエキサイティングに楽しめるヨットが良い。そうやって、得た
結論が、重心が低いヨット、バラスト比が高いヨット、操船のし易いヨット、美しいヨット、そう
思って、欧米から探し出してきました。そして、欧米でもやはりこういうヨットが注目されて
きました。幸いにも、造船所が同じようなコンセプトのモデルを建造してきています。この事
は欧米でも同じなのだろうと思う次第です。多くの方々にシングルハンドデイセーリングを
お奨めする理由です。セーリングを目的にしましょう。これが最高の乗り方です。

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