第81話 チャーターボートVS.個人オーナー

イタリアの造船所のコマー社はこう言っていました。”我々のお客様は個人オーナーであり、
チャーターボートの会社では無い”。欧米ではチャーターボートビジネスが盛んです。休暇に
ヨットをチャーターして、地中海やカリブなどをクルージングして楽しむ人達が多い。こういう
会社は毎年、自社のヨットを更新して、数多くの注文を造船所に発注します。大手造船所に
とって、チャーターボートは大切なビジネスです。チャーターボートにはもちろん世界の超高級
艇もあります。ヒンクリーやアルデン、スワンなどもある。でも、これらはチャーター用に建造
されたヨットでは無く、あくまで個人オーナーの為に建造されています。

個人オーナー向けのヨットを建造する造船所は比較的小規模生産で、プロダクション艇では
あるが、できるだけオーナーのご希望に添える体制を整えています。決まった物以外一切
受け付けないという姿勢は大規模生産の造船所にあります。こうしていかないとラインが乱
れてしまうからでしょう。私がチャーターボートを経営するなら、安価である事、見かけが良い
事を重要視します。そこで、私が造船所の経営者で、チャータービジネスに目を向けるなら
そういうヨットを建造します。

一方、個人オーナーにとってはどうでしょう。安価で見かけが良い事にこした事はありません。
でも、2週間のチャーターでは無く、何年も何年も乗りつづけ、時には時化に遭う事もあるでしょ
う、故障したら修理も必要だし、メインテナンスも必要です。ロングで走れば操作性、乗り心地
も重要です。時には命を守るものでもある。ですから、ただ安ければ何でも良いという気には
なれません。10年乗ったとして、10年後にどんな状態になっているか。日本での認識はまだ
まだこれからでしょうが、ヨットは20年も30年も、いやもっとそれ以上残っていくべきものです。
残っていくという事は価値が残る事ですから、お金にかかってきます。ですから、購入時にだけ
安価であれば良いという事にはならない。それで、個人オーナー向けの造船所は何を考えるで
しょうか。個人オーナーが何を求めているか、チャーターボートとの差別化が必要です。前記し
たような状況にある個人オーナーの環境において、より良い品質のヨットを作るという事になり
ます。但し、品質を上げれば上げる程、高価になる。このバランスを取る必要があります。

前記しましたイタリアのコマー社は日本ではあまり知られてはいませんが、個人オーナーを向い
て建造しているという言葉が気に入りました。確かに、本当にヨットを長く安全に楽しんでいくには
それなりのヨットが必要だと思うからです。調べてみますと、比較的船体設計の重心は低いし、
キャビンの大きさばかりを追求していない。船体はFRPですが、良く使われるポリエステル樹脂を
使用してはいますが、外側はビニルエステル樹脂で積層しています。全てのステンレス製品は
SUS316を使用していますし、工法もバキュームバッグ方式をとっている。価格的には少し高い
が、こういう見えない部分にちゃんとした工法、素材を使っている。実際にいろいろ話しをしてみる
と、多くのオプション群が用意され、さらに、記載外でも相談に乗る。こういう姿勢が個人オーナー
に必要でしょう。CEカテゴリーでも明確にAやBというクラス分けがなされ、外洋を目指す方、或い
は日本で言う沿海仕様程度、こういう事がちゃんと分けられている。

当社ではこういう個人オーナー向けのヨットのみを扱っていこうと思っています。最初の投資額は
少し多めかもしれませんが、長い目で見ると絶対この方が得だと思うからです。もちろん、皆さん
が乗らないなら何でも良い、キャビンでくつろぐだけなら何でも良い、でも、私はもっとヨットに乗り
ましょうと薦めています。乗れば違いが出てくる。今わからなくても、10年には違ってきます。或
いは時化た時には違う。そこで、年間建艇数を100艇程度に絞り、造船所を選択してきました。

イタリアのコマー社のヨットは33フィートから65フィート+カスタム建造をする造船所です。スポー
ツヨットやクルージング艇、イタリアのおしゃれなヨットですが、ヨーロッパのトラディショナルなデザ
インです。ちょっと上行くヨットと言えるでしょう。

アメリカのセーバー社は外洋専門の造船所です。38フィートから45フィートまで、素材や工法等
はかなりのハイレベルです。そして、さらに上を行くのがアルデンヨットです。これはもう超高級艇
になりますが、セミカスタムのヨットで、内装レイアウトから素材まで自由に変更する事ができます。

もうひとつ私が推奨しているコンセプトがあります。これは散々、今まで書いてきたことで、シングル
ハンドデイセーラーというコンセプトです。これはひとつの造船所があらゆるサイズの、同じコンセプト
のヨットを作る事にはなりませんので、1艇づつ選んできました。イタリア、オランダ、ドイツ、アメリカ
と各造船所からそういうコンセプトのヨットを選び、ラインアップに入れています。

これらは全て、個人オーナーの方に目が向いています。個人オーナーはチャーターヨットとは使い方
が違ってくる。それに見合うヨットを各造船所が考え、建造しています。日本でも、ヨットが30年物の
中古が出てくる頃になりました。これから先、ヨットに対する考え方も変えていかなければなりません。
残念ながら、日本のヨットは購入後の手入れが宜しくありません。でも、ヨットは30年どころか、40年
でも50年でも持つ物と考えていかなければなりません。物が良くて、手入れさえしていけば、もっと持
ちます。そんなに持たなくても良いと思うかもしれませんが、考えても見てください。20年しか持たない
ヨットに10年乗るのと、50年持つヨットに10年乗るのとではその10年が全く違ってきます。余裕です。

ヨットがFRPという素材を使う限り、職人の手は省けない。それならどこまで手を入れて建造するかが、
レベルの違いになって現れる。そのレベルに応じた素材を使いますし、工法をするのが普通です。超
高級艇とは言いませんが、ちょっと良い、個人オーナー向けのヨットをお奨めします。

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