第99話 アメリカのセーバー社

セーバー社は東海岸のメイン州にありますが、この地はニューイングランドと称し、
造船の歴史が長いのです。従って、レベルの高い職人が大勢います。有名なヒン
クリーやモーリスもこの地にあります。ここから建造されるヨットは非常にレベルが
高く、価格も高価なのですが、セーバー社は1970年スタートし、他社がセミカス
タムという建造をしている中、プロダクション化を目指しました。この事は仕様を大
きく変更する事はできませんが、プロダクション化によって価格を抑えようと試みた
わけです。品質をカスタムのレベルで、しかし、価格は抑えよう、そういう事です。
これによって室内レイアウトを変更するとか、そういう事はできませんが、それでも
マスプロダクションに比べれば、かなりオーナーのご希望をかなえる事ができます。



年間建造数は約70艇、小規模ですね。スワンを建造するナウター社が30艇と聞き
ましたが、これでだいたい想像できます。セーバー社は外洋艇専門で建造しており
ます。モデルは38フィートから45フィートまでです。外洋と言いましても、昔のように
ロングキール、重排水量という事ではありません。現代の技術は進化しています。
中排水量でセールエリアもやや大きく、船体重心を下げ、ロングはもちろん、コース
タルやデイセーリングにまで、乗りやすくしています。もちろん、シングルという事では
ありませんが、帆走性能が高いというのはロングを走る上にもより行動範囲が広くな
るわけですから、大きなメリットです。本当のロングはエンジンは使いませんから。

サンドイッチ構造による重量軽減、船体剛性の強化、全ての家具類やバルクヘッドは
船体にラミネートされ、床板の下にあるストリンガーもラミネートされています。モール
ドではありません。樹脂はビニルエステルの腕のある職人による完全ハンドラミネート
ラダーシャフトはカーボン(前後の重量軽減によるピッチングの軽減)、とにかく、船体
強度を高め、かつ帆走性能を高める事によって、セーリングの面白みと時化に対する
強さを求める。価格を抑えると言いましても、マスプロダクションヨットに比べれば、かな
り高いと言わざるをえませんが、こういうヨットはロングで走っても、とにかく安心ばかり
か、疲れない。これは大きな違いです。

こういうコンセプトが明確なヨットは、選択する際に重要なファクターです。大きければ
外洋に行けるとは限らない。その造船所がどんなコンセプトで建造しているかそれに
オーナーのご希望と一致しなければなりません。ただ、外洋艇でデイセーリングは
できますが、デイセーラーでは外洋には行けない。簡単な事実です。外洋艇は頑丈で
なければならない。頑丈にするには船体を厚くしなければ剛性が出ない。それで全て
FRPでやりますと重くなりすぎ走らない。それで、ハイテク技術や工法などを駆使して
重くなりすぎないように作る。そうすると価格が上がる。価格が高くなるので全体のレ
ベルも見合う素材、工法を使います。従って、外洋艇は高いものの、それに見合う品質
の高さがあります。品質の高さは寿命にも関係しますし、設置されている機器類の故
障率にも関係してます。思った以上に、海を走るヨットは大きなストレスを受けていま
すので、弱い船体は簡単にねじれています。外洋を走るには相当な品質でなければ
なりません。

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