第七十六話 デイセーラーという価値


      

デイセーラーの真骨頂はより小さなセールでより高いセーリングパフォーマンスを得る処にあります。その意味する処はより操作を容易にするわけですが、その他にセーリングを数値データとして観る以外、感覚レベルで捉えるという新しい価値観を生み出しました。

セーリングにはスピードとスタビリティーについて語られますが、それを捉えるのは操船者です。デイセーラーのパフォーマンスは操船者がそれをどう感じるかも重要です。スピードもスタビリティーもその数値的考察が重要である事には違いありませんが、レーサーが絶対数値を重視するのとは違い、同じスピードでも操船者がどう感じているのか?

スピードは速い方が面白い。それはそうだと思います。しかし、どこまでも速ければ速い程良いのか?という疑問に対しては、様々な価値観がありますから、それに対しては様々なバリエーションで応えています。今日のデイセーラーはレーサーに匹敵するポテンシャルを持つもの迄あります。しかし、最も重要な事はスピードもさることながら、操船者が如何にグッドフィーリングを得られるかです。そこがレーサーとは違う処だと思います。スピード以外の要素も重要です。

今日の最新技術はバキュームインフュージョン工法が確立した事によって、従来よりも遥かに船体を硬くしかも軽く建造できるようになりました。この意味は非常に大きいと思います。そのうえで、内部の船体補強であるストリンガーを上手くデザイン、配置し船体と強固に積層合体させます。バルクへッドも同様です。バウ側のエントリーの部分からスターンに至るまでの波に寄るストレス、マストやスタンディングリギンからのストレス、そういうものに耐えながら尚且つよじれない船体、へこんだりしない船体、そういう強い船体を持つ事によって、操船者はセーリングに滑らかさを感じる様になります。このセールフィーリングが実に気持ち良い。このフィーリングは軽量化と船体の強固化の両方によってもたらされるものだと思います。もし、セーリングのみに絞るのであれば、デイセーラーは今の処、最も理想的なセーリングを味わえるヨットではないかと思います。

セーリング理想論を言えば、キャビンなんか全く不要となり、そういうデイセーラーも既にありますが、現実的にはやはり少しキャビンは欲しいし、また見た目のデザインも重要で、おおいにグッドフィーリングに影響を与えます。ですから、各造船所は様々なアイデアを投入していきます。デザインはクラシックからモダンまで、セルフタッキングジブが出て、ジブブームが出て、メインシートの取り方も違います。どれもが皆美しいヨットを滑らかに美しく走らせて、グッドフィーリングを獲得して頂きたい。それもシングルを可能にしています。それがデイセーラーの価値だと思います。


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