第七十九話 デイセーラーに目標と達成感はあるか?


      

海外のボートショーを見に行かれた事あります?中でも、ドイツのデュッセルドルフボートショーが世界最大規模なんだそうです。そこで注目のイーグル37デイセーラー、昨今の幅広、2ラットヨットが多い中で、ただひとつ異才を放つ。何故かって、目を見張るゴージャスなデザイン、Jクラスのヨットを思わせるこのクラシックラインは時代を超えている。ヨットワールドのリポーターもチェックすべきと言ってます。

このヨットが一般向けでは無い事はあきらかです。いわゆる万能型では無い。デイセーラーはセーリングに特化している。否、厳密に言うとそれも少し違う。それはセールフィーリングに特化したヨットと言えます。

ある人、デイセーリングには目標とするものが無い、従って達成感も無いと言った。そうかもしれない。目標と達成感はセットです。レースにも旅にも目標がある。でも、セーリングの目標は何だろう?そう考えるとその通りとしか言いようが無い。でも、待てよ、目標と達成感というのはあらゆる行動にとって必須なのだろうか?確かに、一般的にはあった方が頑張れる、でも、セーリングというものを純粋に楽しむというのはそういうのとは違う。

美味しい食事をしたいと思う時、その目的は空腹を満たす事だろうか? 充分な栄養を取る事だろうか?そのどちらにも美味しいという条件は必要無い。目的は行為の結果に達する何か、行為とは別の処にあり、美味しいというのは食事そのものの中にある。つまり、美味しいという感覚、舌触りとか喉ごしとか、そういういろんな感覚を味わいたいだけだと思います。それが純粋に食事を楽しむ事だろうし、そこに目標は無い。デイセーリングはこれと同じです。目標を持つのは良い事なんだろうけど、目標を持つと純粋にそのものを味わう事ができなくなる。

デイセーラーは純粋にセーリングを味わう事を目標にしています。でも、この目標はヨットに乗った途端に達成され忘れられます。そこから先は純粋にセーリングのあらゆる面を味わう。そのいろんな味わいを如何に美味に迄高められるかかがデザイナーと造船所の仕事です。乗り手は乗っただけでその美味を味わう事ができる。そしてさらに、乗り手の操作が上手くなると、さらに美味にする事ができる。

セーリングを終えると、その感覚も無くなるが記憶の中には残っている。あ〜美味かったとか、今日のは少し辛かったとか、その時々でいろいろです。この感覚も自分の操作技術と関連している。上手くなれば、辛かった感覚も美味しく料理する事ができるようになれる。だから、長く続ける事ができる。誰も美味に飽きたなんて聞いた事が無い。いろんな美味があるから。

デイセーラーとはそういうコンセプトのヨットです。セーリングから得られるあらゆる感覚を味わう事、それでも充分だが、欲を言えば、自分の操作の向上を図り、より美味になるように料理を楽しむ。デイセーリングに目標は無いけれど、敢えて言えば、もっと美味いもの食べたい。もっとグッドフィーリングをという事になる。でも、この目標はセーリングの外では無く、セーリングそのものの中にある。

マニアックかな〜?だから一般的にはならない?でも、食事で美味いもの食べたいって誰でも思う事なんだけど。今日の食事は美味かったな〜、特に刺身は最高だった。それと同じで、今日のセーリングは良かったな〜、特にあの上りの時は最高だった。また、料理は見た目も大事です。目で味わう。だからデイセーラーは美しい事も条件という事になります。


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