第八十五話 マニュアルの面白さ


      

プッシュボタンセーリングについて書きましたが、一方でマニュアルセーリングというのも悪く無い。風の状況によって力加減の違いが解るし、それもセールフィーリングの一部となり、便利さが決して面白さに取って代わるわけじゃ無いという事だろうと思います。

マニュアルで力が要求されるなら、どうやればより少ない力で対応できるかと考えると腕も上がってくる。上手くなればタッキング時のジブの返しも殆ど力は必要無くなります。負荷とか不便とか、そういうのがあるから、それを何とかしようとして考える。それが結果的にはヨットに対する知識を増やしたり、技術的向上に繋がったりします。それを面白さの一部として捉えるなら、マニュアルも面白さとして捉える事ができます。一方、プッシュボタンセーリングはそれらが楽になった分、セールフィーリングにダイレクトに集中できるようになります。どっちが良いかは遊び心の方向の違いでしょう。

ところで、最近のクルージング艇も小さなジブと大きなメインという設定が普通です。これは明らかに旅では無くセーリングを想定していると思います。何故なら、旅にセーリングで走るとしてもタッキングなんか殆どしないからです。旅のセーリングならむしろ大きなジェノアと小さなメインの方が良いかもしれない。タッキング作業なんてむしろやりたくなるぐらいです。時間たっぷりなんですから。まして、エンジンで走る事が多いわけで、それなら旅にセールを考える必要も無い。

そのクルージング艇でホームポートや旅先でデイセーリングを楽しむ時もあるわけですから、それならただセーリングするだけより、如何にと考えた方が面白くなります。ここに取り上げたヨットはTES28、クルージング艇にしては珍しくメインシートがブーム後方からコクピットのラット前にリードしてあります。これだとウィンチを使わずに操作ができる。しかも、舵を握りながらメインシート操作のコンビネーションを楽しめる。ジブだって、すぐ近くに設置してあります。明らかにクルージング艇でもセーリングを楽しむ想定があるし、シングルハンドの想定もあります。

また、セーリングを楽しむならコードゼロかジェネカーまでを含めるとしたら、このヨットではバウスプリットを標準とし、アンカーの設置とバウからの乗り降りの時のステップとジェネカー用バウスプリットと三つも兼ねています。こういうデザイナーの考え方が気に入ってます。何だかんだ言ってもやっぱりヨットはヨット、どんな形にせよセーリングも楽しみたいと思います。

このヨットなんかマニュアルで遊ぶセーリングには丁度良い。メインだってトップまでウィンチ無しで上げられます。ちょいとボタンを押して微調整するか、自分の腕でちょいとウィンチを回すか。これらの感覚の違い。それは遊び心の違いだと思います。ボタンセーリングには洗練さを感じますし、マニュアルセーリングにはワイルドな男を感じますね。

そしてクルージング艇にはもっと旅寄りのヨットがあります。それは次回へ。


次へ       目次へ