第七十三話 DLR


      

そのヨットが重いのか、軽いのか?単なる重量の話では無く、水線長に対して何トンあるのか?走る上において重要なのは水線から上では無く下です。重いヨットはそれだけ海面下の体積が大きくなり、軽いヨットは小さくなります。単なる排水量だけで比較するのはナンセンス。水線長に対しての話。

それを計算するのが排水量/水線長比率(DLR)です。実は、前話のハルスピードの計算では、従来の計算に、このDLRが組み込まれています。

   DLR=(排水量ポンド/2,240)/(0.01X水線長フィート)^3

水線長という要素に排水量という要素が加わった計算です。この値が90以下なら超軽い。180辺りで軽い、270で中間辺り、360でヘビーとされています。それで軽ければ軽い程速いと言えるでしょうが、海はそんなに単純ではありません。ベタ凪もあれば、時化る事もある。様々な状況下を考えなければなりません。それにレースなのか、旅なのかによっても考え方が違ってきます。

この数値はあくまで相対的に見るべきですが、ある程度想像する事ができます。数値が低ければ、速いだろうなと思うし、数値が高ければ遅いだろうと想像できます。相対的にです。ただ、ヨットは単純では無く、それだけで判断する事はできません。

この他、いつも私が使うセール面積/排水量比(SADR)、それともうひとつ重要な要素がセール面積に対するスタビリティーです。実は、この後者に対する計算式が残念ながら無いんです。フルセールのクローズで、何ノットの風で何度ヒールするか?これは実際に確かめるしかありません。

でも、ある程度の推測をすると、ひとつは船体の幅によるフォームスタビリティー、そしてバラスト重量です。バラスト比では無く、実質重量。でも、これもキールのデザイン、深さに寄りますから、このセール面積に対して何キロのバラストがあれば良いとは言えません。ただ、最下部に重量が集中したバルブキールの方が安定性は高くなるし、吃水も深い方が安定性が高くなる。でも、それが絶対良いとも言えません。

良いか悪いかはどんな使い方を前提にするかに寄って違ってきます。何とも複雑に様々な要素が絡み合っています。ですから、どういう人数で、どういうセーリングや旅をしたいかが先にきて、そのうえで各要素を調べて、相対的な判断をしていく。どういう使い方をするかに寄って、それに相応しいヨットがあります。そうすると、こういう面倒くさいデータも、案外面白さを生み出してくれるのではないかと思います。

各ヨットのデータは、良い悪いの判断では無く、そのデザイナー、造船所がどんな使い方を想定しているかを見極めて、それが自分の使い方に合うかどうかという判断になると思います。

因みに、写真のイーグル38ですが、DLRは197ですから軽いです。前後のオーバーハングがありながら、この数値ですからからなかなかのもんです。それでSADRは24.9ありますから、軽風でもスイスイ走ると推測できます。水線長だけのハルスピードなら6.92ノットですが、排水量を含めてのハルスピードは8.2ノットになり、そのスピード達成エンジンパワーは45.3HPで済む。排水量が軽いからですね。7ノットなら18.6HPです。こう見ていくと、このヨットのセーリングが朧気ながらも見えてくる。30HP辺りのエンジンを積むと7ノットオーバーぐらいの巡行で楽に行けるんじゃなかろうか?

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