第九十八話 コード D なる セール


      

ジブは上り用セールでラフはストレート、そしてドラフトは浅めです。一方、ジェネカーは下り用で、これと全く反対の形状になります。さて、セールは風に合わせて最適なセールを持つのが理論的にも最高ですが、現実には、そんな事やってられません。最近はレーサーだって、昔みたいにはたくさんのセールを持っていない。

ここでは、レーサー以外の話です。ジブとメインは定番ですから、これに下り用のセールでジェネカーというのがありますが、これを使い易くしたいと、誰かがジブファーラーみたいに、ファーリングにしたいと考えた。ところが、ジェネカーのラフは大きくカーブしてますので、このままでは巻き取れない。そこで、ラフをストレートにすれば、ジブみたいにファーリングができると考えた。

ところが上手く行きませんでした。いろんな風の状況がありますが、きれいに巻き取る事が出来ませんでした。巻き取った後も、一部がバタバタしたりしていたわけです。それは下り用ですから、セールに大きなカーブがあり、しかも、ラフからリーチにかけてだけでは無く、上下もカーブして3次元カーブという複雑な形をしており、ジブにもドラフトはありますが、深さは全然違うし、さらにリーチ側も丸く膨らんでいるし、また、さらに軽いセールですから、生地も柔らかい。

そこで、これまた誰かが、別のファーリング方法を考えます。それがトップダウン方式のファーリングで、ラフは丸く、リーチも丸く、ドラフトも深い,でも、そのままでファーリングができる。ジブファーリング方式はラフを軸に巻き取りますが、これはラフはフリーで、セールのピークとタックだけが固定されます。そして、ファーリングドラムを回転させると、その力はセールのピーク側に先に伝わり、上から巻いていく。セールは束のようになって巻き取ります。これが、現在のトップダウン方式のファーリングジェネカーです。

さて、それでも諦められない人達、やっぱりジブファーラーのようにラフからクリューにかけて順番に巻き取りたい。これならラフが固定されて、セールが安定するので、とっても使い易い。性能的には落ちるかもしれないが、でも、使い易ければ皆が使うようになれるだろう。

一方、コードゼロなるセールが登場します。ラフはストレートで、セールはフラット(相対的にです)ですから、きれいに巻ける。という事で、これを参考にしたかどうかは分かりませんが、従来のジェネカーをラフはストレートにし、ドラフトも浅めにし、リーチ側の肩も少し控えめにする。これをどの程度までするかが難しい処なんだと思います。きれいに巻き上げられる状態で、尚且つ、ダウンウィンドに必要なドラフトをどこまで深くできるか?

そういう試行錯誤を繰り返して、気が付いてみると、ラフはストレートだし、ジェネカーより浅いし、それで、コードゼロとは言わないものの、ジェネカーより上れる。でも、下りになるとラフは固定ですし、ジェネカー程は下れない。、また、セール面積もジェネカーより小さいし、ドラフトも浅いので、パワー的にも落ちる。でも、使い易い。レースで勝つ為では無く、セーリングを楽しみたいだけだし、クルーもたくさん居るわけじゃない。シングルだってある。

という事で、以前、コードゼロの様な形状、でももう少し肩を広く、ドラフトは深く、生地はスピン生地で軽くというセールを作ってもらいました。あくまでジブアーリングの様に巻き取るという前提です。セールメーカーはこの時、1.5オンスの生地を薦めてきましたが、オーナーはあくまで軽い方が良いとの事で、0.75オンスにし、破れたら、そん時はそん時よ。という具合。で、結果は上々。

セールメーカーが1.5オンスを薦めた理由は上りの時はセールにストレスがより強くかかる事、それにファーリングなので、そこにもストレスがかかるというのが理由です。でも、オーナーは軽風対策として考えていたので、軽風の上りでも破れる事無く使え、もちろん、ジェネカーより上れて、コードゼロみたいな感じだし、軽い生地なので、ダウンウィンドにふわりと開く。これまでのセーリングとは様相が違ってきた。とは言っても、ジェネカー程は下れなかった。でも、シングルで、これまで退屈だった軽風が、面白くなった事は間違いない。レースでは無くて、セーリングを楽しみたいという方々には、とっても良いのではないかと思います。

ある日、ネットをいろいろ見てましたら、ありました。フランスのDelta Voilesというセールメーカーから、同じ様な考え方で造られたセール、コードDです。この名前の由来はアルファベットのDという文字にセールが似ているからとか何とか?

ホームページを見ますと、走れる角度はアペアレントで60度〜140度とあります。それと165度〜180度、これは観音開きでしょうね、恐らく。実際に使ってみたらどうなのか?、バウスプリットがあるかないかにも関係あると思います。しかし、これにしたって、ドラフトを少し浅めにして上りをさらに良くするというのもあるだろうし。逆に深めにしてダウンウィンドを強調するというのもあると思います。その限度はファーリングで綺麗に巻き取れる事が条件になると思います。

兎に角、これは是非、使ってみたい。とは言っても、日本には無い。ならば、フランスに発注するか?日本にあるセールメーカーに相談すれば造れると思います。実際、造ってもらいました。これって、今後、一般セーリングでどんどん使われるようになる可能性は大きいと思うのですが。性能もさる事ながら、何しろ、ラフが固定なので安定し、ジェネカーみたいにフラフラしない。しかも、上れて、下れる。

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