第四十六話 ノンオーバーラップジブとセルフタッキングジブ 


      

セルフタッキングジブというのは、かなり昔からあったのですが、それを本格的に採用したのはデイセーラーからではないかと思います。それはデイセーラーというヨットがシングルハンドを容易にするという基本コンセプトの様な考え方において、採用されてきたのだろうと思います。それで、多くのデイセーラーがこれを採用し、その影響か、一般のクルージング艇も採用するヨットが増えていきました。

時はノンオーバーラップの時代、その影響はレーサーから来ているのではないかと思いますが、レーサーもクルーが不足しての事かもしれませんが、ノンオーバーラップジブにして、セール面積が減った分、大きなメインセールへと変わっていきます。この時に重視されたのはフリーでの走り、上りはスピードが上がれば上がる程にアペアレントの風向が前に回ります。するとスピードにも限界が出てきます。でも、フリーなら、かなりのスピードを獲得できます。そこで、フリーでのスピード重視、大きなメインと大きな非対称スピンの組み合わせが、その可能性を広げる事になります。

それで、一般のクルージング艇にしても、クルー不足ですし、ノンオーバーラップジブは扱いもし易くなり、さらにセルフタッキングジブにするととっても簡単になりますから、採用が増えてきました。ところが、最近、徐々にですが、セルフタッキングジブでは無い、普通のノンオーバーラップジブを採用するデイセーラーがちらほら登場してきました。

セルフタッキングジブは、その名の通り、タッキング時に舵を切れば良いだけで、他に何もしなくても良い。それがこの艤装のメリットですが、逆に、人に寄っては物足りなさを感じる方もおられます。それに、上りから少し角度を落としていく時、ジブシートはマスト前のレールの片端の位置から以降はシートを出していきますが、その際に、シートのリード位置変えれないので、セール形状が悪くならざるを得ません。これを少しでも解決したのが、普通のノンオーバーラップジブで、この同じ状態の時、ジブのトラックのカーを少し下げていく事ができます。すると、セール形状は良く保つ事ができます。もちろん、これにも限度があり、セルフタッキングジブよりましという事、加えて、セール面積は少し大きくできる事、それにタッキング操作はノンオーバーラップですから、簡単に操作できますし、これぐらいは自分で操作したいという方もおられる。



また、通常のセルフタッキングジブにジブブームを設置して、如何なる角度でも、フリーでもジブを綺麗に展開できるようにしたのがアレリオンヨットです。これでジェネカーを使う事も無く、上りから下り迄を、そのままで走る事ができます。



どっちが良いかは各人の考え方次第で、セーリングをどこまで求めるかの違いだろうと思います。セール形状が多少悪くなっても、それで走れないわけじゃ無し、もっと角度を下げていくと、コードゼロやジェネカ−の登場となりますが、それらを使うタイミングにも寄ると思います。

さて、たま〜にですが、現在所有のヨットをセルフタッキングジブにしたいという相談を受ける事があります。恐らく、現在は150%とか130%とかのジェノアで、タッキング時に手間がかかり、それをセルフタッキングジブにしたら、どんなに楽にできるかという事だと思いますが、特にシングルを考える場合はそうでしょうね。でも、こういう大きなジェノアを持つヨットはメインが小さい。それにジブまで小さくしてしまったら、全体のセール面積が極端に小さくなって、それこそ走らなくなります。それで、現状のジェノアをファーリングで巻いて小さくして、実際に走って試してはと伝え、強風時は良いとしても、それ以下の風でも、それで良いかどうか? 私の知る限りでは、実際にセルフタッキングジブに変更した方を知りません。要は、今まで楽しんできた風域で、楽しめなくなるかもしれないという事です。

ノンオーバーラップジブもセルフタッキングジブも、これらを採用するヨットは、デザインの段階でそういう設計ですので、メインセールが大きくされています。従来と比べてマストが立っている位置は前側に移動し、ブームの長さはマストからフォアステー迄の長さより長くなっています。以前のヨットはメインよりジェノアが大きく、ジェノアで走る。今のヨットはメインの方が大きくなっていますのでメインで走ると考えて良いかと思います。

便利の裏にはデメリットもあります。セルフタッキングジブは便利です。この採用に大賛成でもあります。でも、一方で、デメリットを少しでも減少させるべく、その代わり少し手間をかけてやるというのにも大賛成です。どっちが良いかは考え方次第です。また、現状のノンオーバーラップをセルフタッキングジブに変更して、少しセール面積が削減されますが、それでも尚充分なセール面積を確保できるという事であれば、それも良いと思います。考えてみれば、セルフタッキングジブというのは、メインセールと同じ様なシステムです。メインもトラベラーがあって、セルフタッキングです。

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