第十三話 奥が深い

ヨットは奥が深いとか言いますね。本当は何だって奥は深い。その気になって、もっと突っ込んで
やろうと思った途端、何でも奥の深さが見えてくる。そういうものではないでしょうか?表面だけ
のうすっぺらな物であれば、とっくの昔に消滅しているでしょう。誰かが、その奥を覗いて見たら、
そのもっと奥があった。これらは、その奥を覗いた人達によって受け継がれ、失われずに済んだ。
でも、誰も覗かなかったら、表面だけで飽きてしまって、そんな物は無くなってしまう。

奥を除くともっと深い事が解り、それをもっともっとと延々と続いていく。その中で極めた人間も出て
それを端で見ている者達を刺激し、奥を除く者が増えてくる。表面は楽しみを与え、奥は苦しさも
与えるが同時にそれ以上の喜びをもたらす。その喜びは表面の楽しさとは比較にならないほど、
感動的である。だからこそ、追求者が追求者足り得る。

要は、物事は全て奥が深い。よって、それをどうするかは、我々次第という事になります。奥を除く
というのは、何も極めるという事ではありません。どの程度深く入りこむかという事です。深く入れば
入る程、それを阻害する物が増える。その障害を乗り越えるか、そこで留まるかの違いで、これは
それぞれが判断すれば良い事でしょう。

ヨットの奥の深さは、予測できない風と波にあるようです。それにヨットと自分のコンディション。これ
らが複雑にからみあって、異なる様相を呈する。その組み合わせは無限であるかもしれません。
人間にできる事はヨットと自分のコンディションのコントロールだけです。波と風はコントロール外に
あるわけで、全てがコントロール内にあれば、それ程では無いかもしれませんね。

そこで考えてみると、クルージングで目的の島にエンジンで行くのはどうでしょうか。この場合も波
と風はコントロール下には無いわけですが、しかしながら、まともには組していない。よって、それ
だけ深さは減じられる。行った事が無い島なら、島が深さになります。でも、2度、3度と行きますと
深さは失われてくる。それで、別の島に行きます。でも、そこも同じです。そのうち、行ける範囲は
限られてきますと、行く所が無くなり、何らエキサイティングでも無くなる。延々とあらゆる島を巡り続
けるならば、それも深さとなる。しかしながら、普通に生活していれば、そうもいかない。

ところが、波と風に組しますと、全くのコントロール外ですので、自分さえその気なら、深さを知る事
になります。ヨットの真髄はセーリングにあるという事になります。全ての方々に、クルージング派に
も、エンジンでばかり走る人にも、どこかに行きたい人にも、このセーリングをお奨めする理由です。
確かに、風が無い時は退屈になるかもしれません。強風で恐れる事もあるでしょう。でも、まずは
近場から、どうしても駄目な時は、帰れば良いわけですから、そこから始めて頂きたい。日帰り、
いわるゆデイセーリングで、セーリングを堪能して、その深さを除いて見てください。近場を軽く見な
いで、真剣に走ってみてください。何度も、何度も、そうやっていくうちに、過去の記憶と今と比べて
きますね。前の時はこうだったとか。そういう意味でも、風向風速計やスピード計をお奨めしています
が、同じ条件なのに違う走りの事もある。シートを引くとどう反応するか、頭を使って、調整して、そし
て即座に結果が出ます。複雑なコンビネーションの中で、どこをどう組み合わせていくかによって、
走りは変化していく。微妙な違いはぼ〜っと乗っていては感じ取れない。こういうデイセーリングの時
は神経を研ぎ澄ませて、微妙な違いを感じてください。要はこの感じ取るところにヨットの醍醐味が
あるわけですから、それを感じ取った人が、深さを知り、堪能できる人です。ヨットやるなら、この感覚
を感じとって下さい。そうするとヨットの見方が変わると思います。ヨットは楽しむ為にある。表面的に
楽しむか、深さを楽しむか、それはオーナー次第ですが、どうせやるなら、深さを楽しんで頂きたい。
深さを楽しむ者は表面の楽しさも知りますが、表面の楽しみしか知らない者は、深さは解らない。
でも、そのチャンスは目の前にいつでもある。誰でも、こうしなければならないという事はありません。
楽しいなら良いのです。が、しかし、もう一歩進んでみると、もっと深い楽しみがある事に気づく人は
多いと思います。でも、踏み込まなければ、誰にもわからない。本読んでも、ビデオを見ても、人から
聞いても解らない。何故なら、それは想像であり、自分の体験は感覚だからです。感覚は体験から
生まれるものです。聞く事は知識であり、知識は表現する為の手段であり、表現したら感覚が得られ
る。人間の最終目的は知識では無く、どれだけの感覚を得たかではないかと思うのです。多くの感覚
を得た人は人間が深くなる。

次へ       目次へ