第三話 サイズを決める

サイズを決める要素は、もちろん予算、それからそのヨットを充分運用できるかです。
予算は簡単な事です。誰もが、自分の懐具合と相談すればおのずと解る。でも、予算
があるからと言って、どんなに大きくても良いかというと、そういうわけにもいきません。

誰もが考えるのが、操船に何人必要かという事です。クルーが居るか居ないか.居ても
自分が乗りたい時にクルーが来るのか、クルーの都合でしか動かせないようでは、誰
がオーナーかと疑ってしまう。操船だけの事を考えれば、クルーが居なければ、あるい
は居ても、時々とか、そういう場合なら、シングルハンドを考えるべきだと思います。
いつでもクルーが来るなら、操船に関しては、大きなサイズまでOKでしょう。予算が
許す限り、でかいヨットでも操船はできる。

ただ、ヨットは操船ばかりでは無く、様々な面があります。自分を含めたクルーの人数
で全てを把握しなければなりません。シングルで操船できるからと言って、でかいのに
すると、例えば、ヨットを洗うという行為ひとつとっても、一人でやるのは大変です。でき
るのはできる、でも大変だからめったにしなくなる。自分のヨットの中身を隅から隅まで
把握しておく必要もあります。お金のある方は業者にまかせておく事もできます。でも、
海に出れば自分達だけ、誰かが、わけわかっていないと、業者に電話して聞いても、
らちがあかない事も多い。クルーが居ないなら、自分がヨットの事を充分解っていないと
いけませんし、クルーが居るなら、誰か一人が把握しておかなければなりません。

つまり、クルーが居ないシングルハンドならば、操船できるサイズはもちろん、自分の
ヨットのどこに何があり、どこがどうなっているのか、何かが起きた時、どういう原因が
考えられるのか、そういうある程度の予測がたつことが必要です。そうすると、大きな
サイズでは操船はできても、なかなか自分で全てを把握するには、相当な時間ヨットに
関わっていなければなりません。それができる時間がある人でなければならない。それ
ができないなら、サイズをダウンする必要もあります。大きければ、大きい程、いろんな
物がついてくる。それらを全部理解して、初めて、充分な運用が可能と思います。全て
を理解してと言いますが、何も電気やエンジンにまで精通しろと言っているわけでは無い
ただ、何かが起きた時、どこを見て良いか、さっぱり検討つかないでは困る。

クルーが居るなら、自分もしくはクルーが充分理解していなければならない。修理の依頼
を受けて、現象は説明できても、ならば、簡単な質問してもさっぱりわからないというケー
スは多いものです。ブレーカーが落ちてませんか?どこにあるの?こんなケースもある。
とにかく、大きかろうが小さかろうが、自分又はクルーがヨットのコンディションについて、
常に把握していなければなりません。いつもより、ビルジの溜まりが多いとか、エンジン
の音が違うとか、船底のバルブは何に使われる物がどこに何個あるのか、作動はOKか、
清水ポンプの場所は?タンクがどこにあって、どのホースを使って、ギャレーにきて、外に
流れ出るのか、トイレ、ガスコンロ、スタンチューブ、燃料タンク、排気、そういう物をあらか
たの理屈は解って、自分で点検の必要があります。

つまり、サイズは予算、操船、メインテナンス、この三つによって決定します。メインテナンス
は業者にやらせてOKですが、少なくとも自分で把握はしなければなりません。操船面だけ
でサイズを決めると、例え、シングルででかいヨットを操船できるとしても、接する時間のある
人でなければ、ヨットを充分に自分の物にはできない。そう思うんですが。

そして、本当に自分のヨットになれば、いろんな面で面白くなる。載せてもらうのでは無く、
乗りこなす事ができます。乗りこなせば、一歩進んで、いろんな工夫をするようになる。それ
で、もっと面白くなる。今ある物をそのまま使い、乗りこなす。そうすると、ある物から、進んで
こういう風にしたら、よりやり易いというようなアイデアが出るものです。一人で何でもかんでも
するには工夫が必要です。二人ででかいスピンを上げるには工夫が必要です。これはこうで
あるという常識も必要でしょうが、どうしたらできるかという工夫も楽しいものです。それには
ヨットは自分の物でなければならない。そうするには、充分把握しなければならないし、把握
する為にはその大きさによって、接する時間も比例して多くなければできない。

私は業者ですから、でかいヨットを売りたいのです。50フィートと言わず、100フィートなんか
も売ってみたい。これが我々業者の醍醐味でもある。でも、もし、それが動かなくなってしま
ったら、これは寂しいものです。ですから、予算だけでは無く、運用面を考慮して、サイズを
決定して下さい。予算はあるが、運用面でクルーが居ないとか、居ても時々だとか、クルー
は操船のみにしか役立たないとか、乗る時間はともかく、なかなかメインテナンスまではいき
届かないとか、そういう場合は、ヨットの質を上げて、サイズを落とす。こういう考え方でも
良いと思いますが。

次へ       目次へ