第八十一話 ロング?

雑誌を読んでいますと、ロングクルージングが全てのヨットマンのあこがれであるかのような
記事を見ます。様々な方々の体験が記され、その準備、航海計画、心構え、そしていかに
楽しいかが書かれています。確かに、そうかもしれない。多くの方々は同じ思いをもってこの
記事を読まれるのかもしれない。でも、少なくとも私は違う。つまり、全てのヨットマンでは無
い。南太平洋をクルージングした方の話を聞きますと、確かに楽しそうに話される。でも、実際
どんな人がこれを実行に移せるだろうか?全てのヨットマンの内、何人が行くのだろうか?
あこがれはあるかもしれない。でも、実際に行く人はわずかなのではないかと思う。つまり、
わずかであるから、珍しいから、記事になるのだ。日常の何でも無い事柄は記事にはならない
でも、我々は日常に生きている。こういう記事がいけないとは言わないが、あまりにも強調しす
ぎるのはどうかと思う。ヨットにはレースとロングクルージングしか無いのか、と思いたくなる。

実際にロングにいける人は時間が必要です。現役で仕事している人は無理、それで可能にな
る引退後は体力的に、気力的に無理という人も多い。そんな可能性の薄い事柄を強調されて
も、あこがれはあこがれで終わる。ヨーロッパでは、体力も気力も充分ある若い時に、ロングに
出る人が多いという話を聞いた。日本ではまず無理。仕事やめていかなくてはなりません。
一般的には無理です。

ヨットのベースをロングかレースに置いたら、レースは良いでしょう。でも、クルージング派はヨ
ットに乗れなくなる。重要な事はロングはとりあえずおいといて、日常にいかにヨットを運営して
いくかです。欧米のようにヨットに住ま無いなら、あとはどうします?ロングにあこがれるけれど
現実はできないので、たまのピクニックセーリングに行く。どこかに行って温泉に入って、うまい
もの食って、それが現実です。でも、この現実も楽しいかもしれませんが、たまにだから楽しい
んです。

日本人は温泉が好きで、旅行が好きです。ご馳走食べるのも好きだし、観光地めぐりも楽しい
でも、こんな事はしょっちゅうはやってられない。たまに行くから良いんです。誰でも、簡単に行
ける陸上の旅もそうでしょう。ヨットなら、さらに行けません。でもたまに行くから楽しいし、もう一度
と思うものです。今週行きました。来週も行きますか?再来週はどこに行きます?目的地を持つ
セーリングはみんなこうなるんです。次から次へと行かない限りは楽しめない。同じ所はあきて
くる。こんな事やってるから、ヨットが動かなくなるんです。だって、それ以外にヨットは面白く無い
んですから。

みんなでよってたかって、ヨットが面白く無い方向に追いやっているとしか思えない。おまけに、
エンジンばかり使うんですから、これじゃヨットに乗ってるのか、帆のついたモーターボートに乗っ
てのか解らない。

一般的にロングは無理だから言ってるのではありません。代替品ではありません。ヨットの最も
面白い部分はセーリングそのものにあると思います。それに比べたら、ロングも、島巡りも、温泉
もご馳走も、付加的な楽しみに過ぎない。ロングを一生やらなくても、ヨットのエッセンスは充分
に味わえる。何度も言いますが、デイセーリングでのスポーツクルージングこそ主流になるべき
だと思っています。ロングはそれにあこがれた人がやれば良い。

多くのメディアやヨットマン達が船旅に誘おうとする。まるで、それが最高の遊びであるかのように
でも、そうでは無い。最高の遊びはセーリングそのものにあると断言したい。

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