第九話 セール

クルージング派の方々はセールに無頓着な方々が多い。古くても破れるまで使う。セール
は安くは無いので、気持ちは解るが、あくまで主機なのですから、主機がよれよれでは、
本来の性能を出せないばかりか、苦労ばかりが多くなる。伸びたセールはリカットするか、
それも無理なら、思いきって買い換えるべきだと思います。それに古いセールは強風時に
破れるかもしれません。

伸びたセールはドラフトが深くなる。ドラフトが深いとパワーが付き、より大きなヒールとなっ
ってしまう。それで、バックステーアジャスターを引いたりして、セールをフラットにしようと
試みるも、伸びたセールではもはやそれもできない。これが新しいセールなら、調整ができ
る。フラットにすれば、ヒールも減少し、楽に走れる。スピードも上がる。

スピードはレーサーの専売特許のようですが、考えてみると、スピードが出るというのは、
よりスムースな走りをしているという事です。何も、レーサーと同じ事をしようというのでは
ありません。ただ、スピードが上がるというのはスムースですから、抵抗が少ないという事
です。抵抗が少ないのはヨットにも良いし、人間も楽なのです。ですから、帆走中にスムー
スな走りを目指す事は楽になる事だし、これはスピードを上げる事にもなる。その為に、今
までより少しこまめなトリミングをしようという事です。

ジブシートの出し入れだけで無く、トラックのカー(ブロック)の前後位置を調整する。メイン
シートの出し入れだけで無く、トラックのブロックを移動させる。バックステーアジャスターを
使う。こういうちょっとした操作でヨットは効率良く走らせる事ができます。そういう操作は
面倒では無く、面白いのです。考えてもみてください。自分の操作ひとつひとつにヨットが
反応し、ヨット全体をコントロールするわけです。ただ、乗っている、乗せてもらっているだけ
では無く、全てをコントロールするわけです。そして、それが実にうまく調和する時、これは
快感以外の何物でもない。

レースは各ポジションにクルーがついて、チーム全体で素早く動きます。でも、スポーツク
ルージングは一人でも、そのできる中で、最もスムースな走りを目指す。素早く無くても、
ひとつひとつを順番にやって良い。勝つ為では無く、調和する為ですから。そうすると、少し
時間はかかるかもしれませんが、レーサーのようにスムースになるのです。

レースではもはやレーティングがあっても、通常のヨットでは勝てるものではありません。
いいとこ勝負も無理。船体が違うし、セールも違う。それにクルーの経験も違う。だからレー
スではお祭として楽しむ事になります。だからといって、帆走を重視しないのはいけません。
帆走はレーサーだけがするものでは無いし、帆走は勝つ為だけにする物でもない。帆走は
ヨットが最もヨットらしい特徴ですし、それを楽しむのが最もヨットを楽しむ方法です。

ちなみに、ケブラーセールというのがありますが、以前、これを使った事があります。ダクロン
セールに比べてどうかですが、セールを上げた途端、船体が引っ張られるような感覚があり
ました。ダクロンではこういう感覚は無い。レーサーはもはやダクロンでは勝てない。そう思っ
た次第です。

ダクロンで結構なのです。スポーツクルージングはダクロンでも良い。でも新しいセールで、
トリミングを楽しむ。楽であり、よりスムースであり、いくらクルージングでも、その方が良い
でしょう。ジブファーラーで結構、セルフタッキングジブも良い、そのヨットの最高の走りを目指
して、操作して、全てを楽しむのが良い。スポーツクルージングが最も良い。

理想的には大きなメインと小さなジブ、それにジェネカーという組み合わせが良いと思います
2〜3人で乗る事もあれば、時にはシングルで乗る事もある。こういう場合は、シングルでも
可能にしておかなければなりません。何度も言いますが、できるだけオートパイロットを使わ
ないという前提です。セルフタッキングジブはこの場合も良いと思いますね。何故か皆さん
使われませんが。そして、ジェネカーをもっと使うようにしたら良い。大きなジェノアでも、ダウ
ンウィンドの場合はジェノアはうまく広がってくれません。こういう時はジェネカーが活躍でき
る場面です。ですから、いかにジェネカーをうまく使うかを工夫しなければなりません。でも、
これができれば、セーリングははるかに面白くなる。

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