第二十一話 密度の話

夏と冬では空気の密度が異なります。冬の方が温度が低く、密度が濃い、重い空気です。一方、
夏は空気が軽くなります。という事で、同じ風速なら、冬の方がパワーがあるわけです。考えて
みますと、海水はどうだ、という事になりますが、空気に比べて水の方が遥かに密度が濃い、よって
そのパワーは大きくなります。という事は水というのは無視できませんね。風の事ばかり考えますが
水はもっと影響力が大きいという事になります。

但し、水の影響は風を受けて走る事によって影響を受けますので、やはり風の事を考えなければなり
ません。風を受けてヨットが走る。という事はそのスピードによって、キールが受ける水圧が変わります。
ヨットは真っ直ぐ走るわけでは無く、風はヨットを横流れさせる。水流はキールに対して、斜めに当る。
つまり風下側かわキールに水が当る。セールの揚力と同じように、キールにも揚力が発生します。それは
水流がキールに対して斜めに当る事から生じる。この時、キールの風上側の圧が減少し、ヨットを風上側
に引き上げる力が働く。これによって、横流れを防ぐ事になります。水の密度が大きいだけに、小さなキー
ルでも、その影響力は大きい事になります。

つまり、船底はきれいにしておかなければならないという事です。何もレーサーのように気を使わなくても
良いとは思いますが、時折目にする艇では、汚れた船底を充分にきれいにせず、その上から船底塗装を
している艇もあるし、古い船底塗装の上からどんどん塗り重ねた艇もある。特にキールには滑らかに水が
流れるように、特に前側が凸凹だと、水流が乱れる。密度が高いだけに影響力は大きいのですから、その
辺を頭に入れて、キールはできるだけきれにしておきましょう。まあ、そんなに神経質にならなくても良いの
ですが、少しぐらいは頭に入れておいてください。船底が汚れていると思った以上にブレーキがかかって
しまいます。それだけなら、まだましですが、セールはどんどんヨットを走らせようとしているのに、船底は
どんどんブレーキをかける。ヨットにはかなりの負担がかかるんです。極端になるとマストを折る事にもなり
かねない。

ついでながら、鮫肌というのがあります。鮫の肌はザラザラ、できるだけスムースな方が抵抗が無いと思う
のですが、これは船底にくっついた水とその隣の水、つまり船底をザラザラにする事によって、船底に水を
くっつけて、その水と隣の水との摩擦という事で、最も抵抗が少ないという事です。一時期水泳の水着にも
そういうのがありました。どの程度の効果があるのか解りませんが、そういう理屈だそうです。

とにかく、レーサーはどんな事してでも勝つ為に、努力を惜しまない。一方、クルージングの方はあまりにも
そういう事を無視し過ぎるきらいがあるようです。もちろん、レーサーほどにする必要はありませんが、多少
は気を使ってやると、よりスムースな走りとなって、セーリングが面白いと感じるようになるのではないで
しょうか。

ちなみに、船体の抵抗をドラッグと言います。これは引きずるという意味です。このドラッグができるだけ無い
ようにしてやると、ヨットには負担が少なくなる。という事はより速く走れるという事になります。つまり、レーサ
ーであろうが、無かろうが、速いという事はヨットに負担をかけない良い走りなのです。

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