第三話 アレリオン 28

クラシック、シングルハンド、こういうヨットがアメリカでひとつの流れとしてできそうな気配です。いや
もう既に出来ていると言っても過言では無いと思います。あの超有名なヒンクリーもそういうモデルを
今年、デビューさせました。この流れの最先端をきったのがこのアレリオンと言えるのではないかと
思います。既に300艇近くが進水していますが、こういうタイプのヨットがこれ程売れているというの
は驚異的な事です。

昨年から今年にかけて、いくつかの造船所で同じコンセプトのヨットが出現しました。今、何故、クラ
シック、シングルハンド、デイセーラーなのか。あいも変わらず大型艇が進水している一方で、シング
ルハンドか、彼らの対象は殆どが大型艇からのサイズダウンによるものです。それはアレリオンが
示してきた現象です。ビッグボートのオーナー達はクルーの世話、メインテナンス、そういう事にあきあ
きしてきた。そういう声も聞かれます。また、年齢的な事もあるかもしれない。とにかく、気軽に、いつ
でもセーリングが楽しめるヨットが望まれた。かと言って、小さければ良いという事には妥協できなか
った。小さいながら美しく、存在感のあるヨット。クラシックなデザインはその点において存在感のある
美しさを演出するには格好のデザインでもある。そこにあったのがアレリオンです。

アレリオンのオリジナルは20世紀の初め、正確には1912年とされている。ロングキールの26フィート
だったそうです。そのデザインをベースに、水線以下を現代の船型に再デザインされ、水線から上はクラ
シックのまま、そしてリグを現代のデザインとした。恐らく、当時は一種の冒険ではなかったかと思いま
す。果たして、結果は実に新旧がうまくブレンドされ、現代の走りをクラシックデザインで成功して見せた。
フィンキールを持ち、フラクショナルリグ、セルフタッキングジブとしたのも潔かったと思います。それをファ
ーラーにして、大きなフルバテンメインセールとした。シングルハンドによるセーリング、しかもイージーハン
ドリングであり、尚且つ帆走性能を高める。そういう観点からのセールプランだろうと思います。デイセーリ
ングにおいては、帆走性能を高めた方が面白い。一人で、近場を簡単にセーリングできる。それも高い
帆走能力を持つ。一方、キャビンは狭い。体のでかいアメリカ人が、狭いキャビンに我慢できるのか、天井
も低く真っ直ぐは立てない。何故、こういう低い天井にしたのか聞いた所、28フィートというサイズで、天井
を高くすれば、美しさを保てない。こういう返事でした。天井を何とか真っ直ぐ立てる程高くするには、少なく
とも33フィートか、そのくらいは無いとできない。こういう返事でした。ビッグキャビン全盛の時代に、これ程
潔く割りきった事に敬意を表したいぐらいです。

結果は大当たりと言って良いでしょう。その後、アレリオンは進化し、ジブに回転式のブームをつけた。実際
ジェノアは上りでは良いが、ダウンウィンドではセールをうまく展開できない。その点、このジブブームは小さ
なセールながら、ダウンウィンドに対して、きれいにセールをコントロールできる。従って、トータル的に大きな
サイズより優っていると言う。メインセールにブームがあるのに、何故ジブにブームがあってはいけないのか。
そう言っていました。つまり、クラシックな美しさだけを楽しむヨットでは無く、セーリングを楽しむヨットです。
それを優先した為、キャビンは狭くなった。しかし、それで充分であった。ソファーに座れば天井の高さは問題
無いし、1,2泊程度なら泊まるにも困らない。大きなヨットを尻目に、気軽にスイスイと走りまわるこのヨット、
しかも高性能とくれば、オーナーの満足度も高い。だから、あまり中古市場にも出てこない。出ても高い。

この流れの先駆者です。その後、もっと大きなヨットでもシングルハンドで乗れないかと言う事で、他の造船所
が36や40フィートを出してきたが、全て同じコンセプトです。このヨット、何十年たっても色あせない。クラシック
にはその良さがあります。また、船体工法も特殊で、SCRIMPと称し、通常のFRPハンドレイアップの2倍とも
3倍とも言われる強度がある。ヒンクリーも同じ工法を使っている。

こうやって、割りきれるとどんなにかセーリングが気軽に楽しめるようになるかという見本みたいな物です。ロング
で行かなくても良い、目の前のフィールドで縦横無尽に帆走が楽しめる。自分の体の一部であるかのように、手足
の如く、操作する事ができますので、しびれるような最高のセーリングが簡単に手に入る。私個人的に最もほしい
ヨットです。チークをピッカピッカのニス仕上げにして、最高の美しさで、最高の美しい走りをしたいと思いますね。

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