第三十六話 特殊なヨット、アレリオン

特殊というのは一般的では無いという意味ですから、一般は何かと言えば、我々が良く目にする
ヨット、たくさんあるヨット、つまりは数の問題となる。一般的ヨットは一般に使われるヨットである
から、だからそれ以外のヨット、それ以外の使われ方は一般的では無い。と、こうなるのだが、その
一般とされるヨットが使われていないとしたら、一般的使われ方とは何だろう。

使われていないので一般的とは言いがたいが、あえて、それでも使っている範囲で言えば、デイセ
ーリングが圧倒的だろうと思う。一般的なヨットとはキャビンの大きなヨットであり、一般的使われ方
はデイセーリング。これはちょっと考えるとミスマッチか?

だからと言って、デイセーリング用のヨットにすると、万一遠くへ行きたくなった時には困るから。そう
思って、デイセーリングのヨットにはしない。こういう図式ではないかと思う。でも、もし、俺はデイセー
リングしかしない。ちょっと行ってもせぜいウィークエンドセーリングの1,2泊程度以内で充分だと言う
なら、もってこいのヨットがある。そういうコンセプトで建造されるヨットがある。一体、そういうヨットは
何が違うのか?

デイセーリングというヨットはもちろんセーリング重視である。デイセーリングを想像してみると、帆走性
能が高く速い方が面白い。かといってレースするわけでは無いので、レーサーみたいなのでは無い。
セーリングを楽しんで、帰ってきたらキャビンで簡単にくつろげる程度。それで良い。それより、セーリン
グがしやすく、安定感があり、そして何と言ってもシングルハンドでも楽々走れる事ではないだろうか。

アメリカでもデイセーリングと言えば、かつては20フィート前後ぐらいの小さなサイズを指していた。キャ
ビンもあるかないか、その程度であった。でも、アレリオンの登場で、様相は変化した。

アレリオンは昔、1912年にハーショフという有名なデザイナーが自分で乗る為にデザインされたヨット
だそうだ。当時高い評価を得、今では博物館入りになっている。そのヨットをべースに、現代風にアレンジ
しなおし、クラシックな美しい姿はそのままに現代の走りで、デイセーリングを実現しようと考えた事は
すごい事だと思う。シングルハンドのデイセーリングであれば、今のヨットの小さなサイズでも良かったか
もしれない。でも、あえてクラシックデザインにこだわり、工法も特殊、シングルハンドにこだわった。

アレリオン28はFRP建造でSCRIMという特殊工法にて建造されている。これはハンドレイアップの数倍
の強度にできるという特許工法である。速いヨットには強い船体が必要なのである。水線から上はクラシ
ックな姿を見せ、それでもごてごてしないように、スポーティーな雰囲気もある。水線以下は現代の流体
力学が造船工学によって発展してきた新しい船型を持たせた。これはスポーティー性を高め、帆走性能
を高めた。マストやリグも同様、アルミマスト、フラクショナルリグ、クラシックとモダンをうまく融合させ、
クラシックな姿で現代の走りをするというものです。

さらに、シングルハンド仕様という事に徹している。舵を握って、全てに手が届く、おまけにセルフタッキン
グジブだから、操作は簡単。でも、ジブセールは小さくなるので、マスト位置を少し前側にやって、小さな
ジブの替わりに大きなメインセールとした。実に低い船体は重心を低くして、風圧面積を減少させる。しか
し、キャビンはその代償として狭くなるが、それでもちょっとくつろぐには充分ではないか。必要な物は全部
ある。このおかげで、非常に美しい、重心の低い、帆走性能の高い、シングルハンドヨットが完成したので
す。

結果、ビッグボートからの乗り換えオーナーがこのアレリオンにやってきた。もう遠くへは行かなくても良い、
メインテナンスも、クルー確保もうんざりだ。それより、いつでも自分一人でも気楽にセーリングに出れるヨット
がほしかった。だからと言って、小さければ良いわけじゃない。存在感のある、美しいヨットで、速いヨットだ。
そういう方々がアレリオンに移行してきた。既に300艇近い進水なので、もはやアメリカでは特殊ではなくなり
つつあると言って良いだろう。一方でビッグボートに行く人も要れば、一方でシングルハンドデイセーラーに移行
する人む少なく無い。

このマーケットを見て、他の艇も出現してきた。GH26がそうだし、M36もフレンドシップもそうだ。ただ、違うのは
もっと、もっと豪華にして、大きなヨットはシングルハンドを実現する為に電動とかを使っている。しかし、いずれも
シングルハンドのデイセーラーからウィークエンドセーリングというコンセプトは同じです。

この動きは、まさしく、ヨット文化の進化で、ヨットにスポーツカーが現れたように思える。日本ではまだこういう
ヨットは特殊であるだろうが、もっともっとヨット分化が進むと、こういうスポーツカー的なヨットが特殊から一般
の一部にはなり得るだろう。本当は、今の一般的使い方からすれば、この方が絶対に良い。こうやって割りきる
為にはヨット文化が進まないとこうはならない。あれもある、これもある、でも俺はこういう性格で、こういう環境
だから、これがもっとも合っていると判断できるのは、進んだ考え方の人だけができる判断ではないかと思う。
日本がこういうヨットが良いという人達が多くなってきた時、ヨットは係留しておくものでは無く、セーリングして
楽しむものだと思う時であり、マリーナが賑あう時かもしれない。

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