第六十二話 あるオーナー

数年前に25フィートのヨットを売ったオーナーですが、これまでは忙しくてあまり乗る事ができなかった。
しかし,引退を目の前にして、最近は良く乗るそうです。数年前は全くの初心者、一人で出るだけでも
どきどきしたそうです。でも、今はすっかりセーリングに目覚めてしまった。

引退後の充実セーリングを目指して、まずは室内外の手入れ、ニス塗装、から始まり、セールを新調し
て、セーリングを楽しむ準備をされています。”これまでは、何気なく、漫然とセーリングしていた。しかし
今は違う。セーリングそのものがとても面白くなってきた。それに、手入れして、きれいになっていくヨット
を見てると、それも楽しいし、サイズ的にも自分で何とかしようと思えるサイズ、シングルで遊べるサイズ
これからが楽しみです。”

大きなサイズも魅力がある。でも、小さなサイズでも、気軽にセーリングできる事と、何と言っても自分で
メインテナンスする事も負担にはならないし、それにニスを塗ったりして、美しくなっていく様を見るのも
気分が良い。セーリングからメインテナンスまでを楽しみ、楽しんでいるとノウハウも増えて、それがまた
楽しい。丸ごと楽しめるものです。マリーナの出入港も軽々、ちっとも負担に感じないし、とにかく、ヨット
が手足のように自由に扱える。

遠くに遠征するなら、ある程度大きなヨットという事もあるだろう。でも、近場のセーリング中心なら、何と
気軽になれるだろう。美しいヨットをもっと美しく手入れして、その姿を楽しみ、手足のごとく、自由自在に
セーリングして、そのパフォーマンスを楽しむ。まさしくヨットの醍醐味を全て手に入れたような、そういう
楽しみ方です。

最もお奨めしたい乗り方、楽しみ方なのです。シングルハンドででかいヨットを動かす人も居ます。でも、
私個人のレベルで言えば、そういう方は例外で、一般的には25フィートから30フィート以下、それも今
の30フィートはでか過ぎる。ちょっと細身の低重心、見た目に美しく、そしてハイパフォーマンスなら、尚
良い。こういうヨットを自由自在に操船できるようになれば、どんな感じがするだろうか。ティラーに伝わる
波の感触、セールのコントロールも手軽にできる。そして、乗りつづけながら、工夫が自然と生まれてくる
そうすると、自分独自のスタイルが出てくる。人馬一体という言葉があるが、人とヨットに一体感が生まれ
てくるだろう。こんなセーリングを目指してはどうだろうか。ヨットがステータスという事もあるだろう。でも、
そんな事より、はるかに、しびれるような満足感がうまれてきはしないか。まるで、馬を自由自在に乗りこ
なす感覚、優れたドライバーがスポーツカーを自由自在に乗りまわす感覚、そうすると自然にヨットを
馬を車を愛する感覚が出てくるだろう。こうなると、それに自然に習熟していくのは自然の流れではないか。
これ以上に楽しい事が、他にあるだろうか?シングルだろうが、ダブルだろうが、目指す方向が同じで、
同じ価値観を分け合い、習熟し、乗りまわし、そしていつも美しく手入れをする。キャビンに靴脱いで入る
大切にするというやり方もあるだろうが、それより、使いまくって、手入れを充分にする。したくなる気持ち。
それが、楽しいというものではないだろうか。

次へ      目次へ