第六十五話 名前

あらゆる物には名前がつけられています。その名前によって、それが何の役目をするかが
決められている。名前を聞いただけで、それがわかる。便利な仕組みです。でも、一方で
は、その名前がついているせいで、その役目以外の考えが及ばない事があります。

シートウィンチはシートを引くしか能が無いのか?ハリヤードウィンチを経由して、シートウィ
ンチを使う事もできる。逆に、ハリヤードウィンチを電動にしたなら、いろんなシートを経由
しながら、ここにリードすれば、いろんな場面で使える。ブームバングはブーム下げる役目
をする。メインシートトラベラーが及ばないくらいメインシートを出したら、バングでブームの
高さを調整できる。でも、バングはブームがどこにあってもブームを下げる事ができる。

ウィンチはアンカーだって引けるし、メインシートはバックステーのようにマストを引く事もでき
る。まだまだ、たくさんあるでしょう。名前は便利なのですが、名前は同時に、それが何であ
るかを限定してしまう。もっと限定せずに、大きく見れば、いろんな物がいろんな場面で使える
と思います。

ただ、名前はその物が最も得意とする目的に応じて造られている為、その名前の仕事をする
のが最も得意なのです。ヨットの最も得意とする事はセーリングです。住みこむ事も、宴会する
事も、移動手段としても、ステータスとしても、別荘としても、いろんな使い方があります。でも、
得意なのはセーリングです。そのセーリング無しでは、ヨットを活かしたとは言いがたい。オーナ
ーの勝手といえばそれまでですが、その最も得意とする部分を楽しむのが、最もヨットが生きる
方法です。その為にデザイナーは線を引き、職人は手間をかけています。そこに、彼らの思い
がある。その思いを味わうのが、最も活かす方法、ヨットが生きる方法であると思いますね。

レーシングヨットはレースが得意、でもクルージングに使っても良い。クルージングヨットでレース
をしても良い。でも、得意分野で使うのが最もそのヨットが生きる。名前は得意分野を示す。
動かなくなったヨットには、別の名前をつけてあげよう。浮かぶ家、いや箱?飾りかな?

ヨットはセーリングしている姿が最も美しいのです。競走馬は走っている時が最も美しい。これと
同じです。美しい走りを目指しましょう。これ以上にヨットを楽しむ方法は無い。世界一周でも、
日本一周でも、湾内でも、美しいものは美しい。

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