第七十六話 パイロットハウス

最近,パイロットハウスの要望が多くなってきました。ヨットを船旅として考えていけば
船外でも船内でも操船ができる。雨の日,寒い日、そういう時に船内にステアリング
があるのはありがたい。そういう考え方です。

これはこれでひとつの遊び方です。仕事を引退して、有り余る時間がある方,日常に
2,3時間のセーリングという気楽さは無いかもしれませんが,日頃はメインテナンス
に励み、たまにはヨット泊まったり、そういう過ごし方をし、年に1回とか2回とか、ロン
グクルージングに出る。

現在、ある方が九州一周の旅に出られました。旅先からの葉書では、あっちこっちの
港に泊まり、いろんな方々に出会い、かなり楽しんでおられる雰囲気が書かれていま
す。帆走よりも機走が殆どのようですが、それはそれで、こういうヨットは船旅には似合う
ものだと思います。

同じサイズの他のヨットに比べれば、キャビン内にもうひとつのステアリングがありますの
で、ちょっとその分スペースを占領されますが、小人数で行く度には、何の支障も無いよ
うです。

パイロットハウスではどうしてもデッキから上の構造物がつきます。船内操船の場合に外部
が見えなければなりませんので当然ですが、従って、その分重心は上がる事になる。特に
機走で走る場合、重心が高いとどうしてもローリングが激しくなり、長時間のクルージングは
しんどいものです。ですから、こういうヨットにはより重いキールをもって、より重心を下げる
必要がある。ロングキールなんかは良いでしょうね。

ロングキールはいずれにしろ、ロングクルージング向きです。直進性は良いし、波当りも柔ら
かい、ロングを走るには都合が良い。しかしながら、港の中での小回りが効かないので、
これをどう制御するかが、練習が必要です。今,九州一周中の方も最初はロングキールに
結構てこずっておられました。それが練習の末、今ではシングルでも上手に出入りをされます。
コツはどううまくエンジンのパワーを使うかと風によって、通常のヨット以上にバウ側が風下に
流れますので、それをうまく使う事が必要になる。狭いマリーナでエンジンをふかすのは勇気
が要ります。でも、それをうまく使いこなせるようになると,結構自由に出せる。うまい人の操船
を見ていますと、かなり思いきってエンジン回転を上げて、エンジンを上手に使われています。
エンジン回転を上げてだらだらと長く続けると、ドカンとぶつかるかもしれませんが、ふかして、
下げる。必要に応じて何度もやる。そういうやり方です。

私は個人的にはセーリングを楽しむ派ですので、こういうヨットをほしいとは思いませんが、使い
方次第です。でも必要な事はたっぷりの時間です。それが無い方がこういうヨットを乗りますと、
パイロットハウスが持つ特性を役立たせる事ができにくいので、たっぷりの時間があって、船旅
を時間をかけて楽しみたいと思う方々にはお奨めですね。

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