第八十八話 ヨットの進化

ヨットは欧米文化、欧米では盛んなだけに、次から次へといろんなヨットが建造されていく。以前、紹介
しました完全オートマチックなヨットのようなヨットも出てくる。艤装品もしかり、最近ではメインファーラー
も少しづつ増えてきている。電動ウィンチも、GPSも、オートパイロットも、どんどん出てきて、何ら特殊
とは言えなくなるだろう。それにエアコンだって、大きなヨットには珍しくも無い。そのうち、これらはみんな
当たり前の装備になるのだろうか。

時代が進めば、こういう進化は当然出てくる。欧米から最新の機器が、あっという間に導入される。こうい
う進化は当然なのだろうが、一方で、ヨット自体に実際乗っているのだろうか、という疑問もある。ヨットが
どんどん広がって、そしてその中で、進化が見られるのなら良いのだが、広がりを持つ欧米から最新の機
器が入ってくる。でも、日本ではまだそんなにヨット自体が広がってはいない。それどころか、今既にある
ヨットがあまり使われていない。

機械がどんどん進んで、一部の方々が導入していく。悪い事では無いのだろうが、どうもしっくりこない。
簡単な例を言えば、ジブファーラーは広がってしまったが、ジブファーラーが無いとセーリングできないわけ
では無い。しかし、ジブファーラーは今や必携となっている。その為に何十万かの費用がかかる。予算が
無いから、今はハンクスで楽しもうという気風には無い。進化する事は良い事なのだろうが、それが無いと
セーリングできないかのような、そんな風になっていっているような気がする。そうすると、ヨットはもっと遠く
に行ってしまうような、遠い存在になりはしないか。

もっと気軽に乗る為に、遠くへは行かないでも近場で遊ぶ、いつかは遠くへ行きたいが、今はできないので
近場で遊ぶ。そういう事が、今できる事をしないで、これがないと、と思う。そういう事が全体の広がりを
抑えこんでしまわないか。

でかいヨットで、フル装備で、そういう方々はそれで良い。でも、それが無いとセーリングできないような、そ
んな気分になると、今ヨット遊びできるのに、できなくなってしまう。シンプルでも良い、GPS無くても近くなら
一向に構わない。ジブファーラー無くても、小さなセールで乗るから良い。とにかく、セーリングに出ること。
遠くに行かなくても良いから、セーリングに出る事、21フィートでも、キャビン狭くても、今気軽に出れるなら
それで良い。そういう気軽さでヨットにどんどん乗って、セーリングを楽しんで、そしていつか、もっと遠くへ
行きたくなった時、もっと大きなヨットに乗れるようになった時、そういう時に少しづつ必要な物を増やしていく。
とにかく、今できる事をする。ヨットは最低限、セーリングする事ですから、今できるセーリングをするのが良
かろうと思うのです。予算がある方々はフル装備にできる。それで良い。でも、そんな物無くても、ヨットは
充分に楽しめる。ファーラーが無くても、GPS無くても、十分に楽しめる。小さくても古くても、充分に楽しめる。

まずは、何より、セーリングの醍醐味を味わう事が先決です。そりゃあ、何でもついていたほうが便利です。
でも、ついてなくても、ヨットの醍醐味は味わえる。場合によっては、余計な物がついていない方が良いかも
しれない。そう思えば、もっと、もっと気軽にヨットで、誰でも遊べるようになる。自転車に乗るのに、モーター
付きというのもありますが、自転車を楽しむなら、そんな物は無い方が楽しめる。それと同じではないかと思う
のです。大きなヨットが電動を利用するのも解る。しかしながら、一方で、小さなヨットで、自分の手でセールを
上げて、自分の手でコントロールして、その重さを感じながら、セーリングするというベーシックでありながら、
最高の醍醐味を味わえるセーリングというのも忘れてはならないような気がします。

ヨットという物が進化する一方で、乗り手がどのようななっていくか、それによってはヨットは益々限られた一部
の人達だけに独占されるか、あるいは、誰でもそのきになれば楽しめる道具になるのか。まずは、セーリング
というベースを、いかに楽しめるようにするか、気軽にするか、ここがスタートではないかと思うのです。ヨット
が進化するように、人間も進化します。でも、その進化は自分の乗り方を知り、自分のやり方でいかにヨットを
楽しむかという事ではないかと思います。みんなが同じである必要性は全く無い。自分がまずはシンプルに
乗って、乗りながらこれは必要だと感じた物は進化でしょう。そういう進化の仕方は実に面白い。自分が解って
ひとつ加え、また解ってひとつ加える。自分とヨットが同時に進化していく。このプロセスは面白い。

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