第百話 トータルで考える

世の中には世界一周を単独でしたり、何度も挑戦したり、無寄港であったり、はたまた
すごい事をする冒険家が居る。すごい事ではあるのだが、失礼ながら、そういう凄い
人が凄い事をするのに、あまり興味は無い。日本一周さえも、九州一周さえも興味が
無い。

私が最も興味があるのは、私のような凡人がいかにヨットを楽しく遊ぶかという事です。
何の記録を打ち立てるような事もできないし、ただの人です。そのただの人が、面白く
てたまらないというヨット、それはどんなヨットでどんな乗り方をしたら良いのか。とりた
てて自慢できる事は何も無い。でも、まことに普通である自分が、最高に楽しむという
のに、何もどこかを一周しなければならないもんでも無いと思っています。何の記録も
要らないと思っています。誰でもできて、いつでもできて、すぐ目の前でできる事、そして
それが、日本一周にも劣らないエキサイティングである事、何の記録にも残らないが、
誰の目にも映らないが、自分なりの楽しみ方で充分遊べれば、それで良いと思っていま
す。ですから、普通の人が普通に遊び、最も楽しい乗り方は何だろうか、と考えるわけ
です。

それは普通である私が経験してきて、最も最高だった事に行き着くわけで、それはセー
リングに他なりません。レースでも無く、かといってどこかに行くクルージングでもなく、
ただひたすらヨットをできるだけ速く走らせる。レースでの制約も何も無い。その時に、
吹いている風にあわせて、行きたい方向に舵を合わせて、ただ帆走する。最初は何も
解りませんから試行錯誤、タックを繰り返して、どんどん要領を得てくる。そうすると、何
かのブイとか見つけて、適当にそこを交わすという設定、タックをポンポンと連続して
駆け抜ける。そういう事ばかりして遊んでいました。突然の雷雨があったり、座礁も経験
しました。慣れてくるとつい無謀になりますね。これはいけません。シートの出し具合、
ブロー、舵の取り方、勝つとか、負けるとか、全く関係無い。それでも最高の走りを目指
して、ただ帆走するだけです。風向風速計、スピード計を見て、アングルや艇速をはかり
、こんな事を繰り返していると、体が自然に意識する事無く、このヨットの動きを感じている
のに気がつきました。ある日、何か変、何か解りませんが、何か微妙な振動が感じられた
それで、すぐに帰って上架してみると、キールの先端にほんのわずかな傷が確認されまし
た、自慢じゃないですが、こんなのに良くきがついたねと感心されました。すぐに修理して、
出てみると、今度はOK,間違いなく、あの傷がキールを伝って感じられたのです。こんな事は
誰でも、いつも意識してセーリングしていれば、誰でも感じれる事なのです。極めつけは、
いつものようにセーリングしていて、風とセールがピッタリあったののでしょう。偶然です。
そして私自身もセーリングに集中していました。その全てが整った時、言葉では言い表せ
ない、何とも言えぬハイな気分になっていました。その最中は集中していましたからわかり
ませんが、後で思うと、実に良い気分だったと思います。

へたな自分が少しづつヨットの事を知りながら、勉強しながら、試行錯誤して、そしてゆっくり
ではあるがだんだん解ってくる。スムースな動きができてくる。無駄が少しづつなくなってくる。
そういう事だけでも、結構楽しいんです。それが、突如、全てが整って、最高の走りをした時
それもただ真っ直ぐ走っているだけです。それだけで、しびれてしまった。

これなら、誰でも、近場で、短時間で、できます。そして時にはセーリングに集中して、ひたすら
最高のセーリングをめざして、自分なりの試行錯誤で、最高のフィーリングが得られます。です
から、セーリングをしましょう、クルージング派も最高のセーリングをしましょうと言ってきました。
そして、これが充実していくと、キャビンでくつろぐ時、ゲストが来てゆったりのる時、そういう時
でもとても楽しくなるという事が解ってきた。

これが、誰でもできる最高のセーリング術だと思います。誰でも、気軽にできて、そして得る物
は最高のフィーリングです。これしかないと思います。ちょっと言いすぎかも。こういう観点から見
ると、スポーツセーリングに行き着くわけです。それで、ヨットをこの観点から考えると、いろんな
事が見えてくる。

多くのヨットは、クルージングヨットを称するヨットは、広いコクピットと大きなキャビンを強調し、
セールハンドリングは邪魔にならない所に追いやられ、こういうのを見ていますと、どう考えても
セーリングを楽しもうという観点には無いように思えます。確かに、セーリングはどんなヨットでも
セールさえあればできる。でも、セーリングは二の次という感じがしてきます。欧米人がヨットに
寝泊りする事、そして欧米人でも遠くへ行く時は殆どエンジンを使う事、こういう事を考えれば、
当然の帰結です。それと同じように日本でも同様の楽しみ方をして、満喫されているのなら、それ
はそれで良いと思います。しかしながら、どうみても、そうでは無い。遠くに行ける時間は無いし、
だからと言って、キャビンを有効に使っているでも無い。殆どが動いていない状態です。これは
異常な事です。日本人はキャビンライフを有効に欧米人のように使うという事には不向きなので
はないか、そして欧米人のように長期休暇が無い。時間ができる頃は引退してからになる。
もちろん、ロングを否定しません。時間がある人達は多いに楽しむ事ができる。でも多くの現役
のビジネスマン達にとって、キャビンを使わない、ロングにいけないではヨットを楽しむ事はできま
せん。

それで、考えられる事は、デイセーリングという事になります。デイセーリングでは行動範囲が限
られてきます。その限られた範囲を、ロングに行くが如く、エンジンを使っていたのでは面白く
無い。セーリングするも、ただのんびり、漂うが如くだけでは飽きてくる。こういう狭い範囲をエキ
サイティングなものにするのはスポーツが良いと思います。これまでは、速く走ろうとするのは
レーサーだった。でも、クルージング艇でもスポーツとして、より滑らかなセーリングを目指す。
腕の上達は感じる。そして、もっと滑らかに、速く、そういう事に限りは無いわけですから、これは
終わりが無い。完全にゴールを持たないプロセスの遊びです。

実際、自分で経験してきて、こういう乗り方をしていた時が最も面白かったと記憶に残っています。
それに誰でも、近場でできる。自分の今居るレベルからスタートできますから、誰でもできるのです。
こういうセーリングを目指し、楽しんで、上達して、感じ取り、勉強して、試し、そういう事が非常に
楽しく感じられました。これの良い所は、自分の腕のレベルには関係ない事です。それに勝ち負け
も無い。勝ち負けが無いからのんびりしたがる。でも、あえて、より速くを目指していくと、勝負には
関係の無い、別の意味が出てきます。それを是非多くの方々に実行して頂きたいと思います。

それを気楽に実行するには、クルーの心配していたりしていてはどうにもならない。ですから基本は
シングルハンドが良いと言ってきました。シングルはクルーをあてにしませんから、来ても良いし、
来なくても良い。それを基本に持ってくれば、本当に心行くまで自分のペースで走る事ができる。
そうやって普段楽しんでこそ、ゲストが来た時、家族とクルージングする時、船内に泊まる時、
これらも余裕で楽しさが倍増していきます。ゲストにも、多いに楽しんでいただけるように演出する
余裕もできる。こういう使い分けをしてはどうだろうか、そう考えて、ヨットを選んでいます。どうか、
今あるヨットで、セーリングに集中して遊んで見る事をお奨めします。もちろん、良い事ばかりでは
無いでしょう。でも、きっと、そうやって乗っていれば、これまで経験した事の無い、しびれるような
場面に出会うはずです。それを体験すると、ヨットの面白さがグンと上がるはずです。

その為に、セーリングする為に、ヨットを選び、検討し、艤装を考える。メインテナンスも、全て、学び
知る事が楽しいものになっていくと確信しています。年とってきて、今更バタバタもしたくないという方
もおられるでしょう。バタバタしなくても良いのです。自分のできる事に、セーリングに集中して、できる
事だけやる。それでも随分違ってきます。意識する事が大切です。でも、実際意識だけして、何もしな
いのでは、不十分、ちょっと今までしなかった事、トリミングなどを意識して、積極的にやる、セーリン
グ自体を操作して、楽しもうという事です。

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