第四話 こだわり

こだわるな、素直に、とは言いますが、シングルハンド/デイセーリングには少しこだわり
を持ちたい。例えば、飛び切り速いとか、レーサー等はレーティングというしばりがありま
すので、いくら速くても、レーティング上不利になる場合は結果として勝てないというのが
あります。でも、レーサーではありませんので、レーティングがどうだろうが、そんな事は
どうでも良い。速ければ、それなりに面白い。仮に、レースに出て、レーティング悪くて、
勝てなくてもファーストホームなら気持ちが良いもんです。レーティングという足枷は、
ヨットが速く走る事の足を引っ張っているものでもある。でも、そういう足枷をかいくぐって
トータルで有利に持っていこうとするのがレーサです。

デイセーリングではセーリング性能が高いというのは魅力です。近場を走るには、そこそこ
性能が高い、速い方が面白いと思います。ただ、どこまでこだわるかはそれぞれで、速い
というだけでは、他の犠牲も伴うので、それぞれが考えれば良い事ですが、まあ、そこそこ
走ってくれる方が面白いと思いますね。もうひとつのこだわりですが、これは何と言っても
美しさです。美しい、格好良い姿、そういう見た目のデザインにもこだわりたいです。
美しさにも、人によって感じる美しさの違いというものがありますが、モダンなデザインで、
流線型の美しさもあれば、クラシックなスタイルで、所々あしらったチークがピカピカのニス
塗装がされているなど、個人的には後者に美しさを感じます。

こういう美しさの共通はモダンだろうが、クラシックだろうが、全体のバランスにある。つまり
長さに対して、フリーボード、キャビンの高さ、そういう比率が関係してくる。人間の大きさは
変わらないので、キャビンの天井の高さが人間のサイズを考えてデザインすれば、どんなに
小さなヨットでも、ある程度最低の高さが決まってきます。そうすると、大きなヨットは余裕で
美しいバランスを確保できるものの、小さなヨットがずんぐりむっくりというのは避けられない。
でも、欧米で建造されているこういうコンセプトのヨットは、デイセーリングが主体ですから、
キャビンの天井の高さを犠牲にしてでも、低く設計されています。従って、天井は低い。実を
言いますと、M36、36フィートですが、天井の高さは低く、まっすぐ立てない。36フィートでも
そうなのです。しかしながら、この事がヨットの重心を極めて低く設定する事ができる。この事
は非常に重要です。この事でセーリングがより楽になります。デザイン、美しさ、バランスを
良くする為にこうしたのか、重心を低くする為にこうしたのかは解りませんが、この事で両方を
実現している事はプラスに働きます。一方、こうする事でキャビンの居住性を犠牲にすると
いう結果になります。デザイナーがこの時どう悩んだかは解りませんが、多分、これは冒険
でもあったと思います。今日のほとんどのヨットが,サイズの割には大きなキャビンというのが
当たり前の時代、キャビンの小さなヨットというのは不利に見える。

デイセーラーの基本コンセプトはセーリングを気楽に楽しむ事にある。忙しい方々が、ちょっと
セーリングを楽しむのに使うヨット、気楽で、セーリングが面白く、走りやすいヨット、そういう事
を考えた場合、キャビンの重要度は低くなる。デザイナーはこう言います。天井を高くすれば
居住性は良くなるかもしれないが、このヨットは住む為のヨットでは無い。セーリングを楽しむ
もので、居住性どころか、ほとんどはコクピットに居るので、それ程必要は無い。それに、そう
すると美しくなくなる。

欧米の多くの方々が、こういうヨットに求めるものは、居住性では無く、美しさと性能にあるよう
です。ロングで走るなら話は違う。でも、こういうヨットは近場主体です。日帰りか、せいぜい
2,3日のウィークエンドセーリングです。それに大きなキャビンは絶対必要というものでは無い
それより他に犠牲にしたくない物がある。

こういうコンセプトですから、たいては簡単なギャレーで済ませる。ガスコンロにオーブン付、
温水が出てなんて事は無い。必要無いと考えている。冷蔵庫だってショートセーリングでは必
要無い。それどころか、あればエンジンかけていないとバッテリーが上がってしまう。そんな
心配などしたくも無い。その日に必要な分だけのアイスボックスで十分なのです。清水もモー
ターを使って、家の水道と同じように考える方もおられますが、ちょっとしか使わない清水には
フットペダルの方が便利なのです。いちいちスイッチ入れてなんて事するより、すぐに使える。
ちょっと、コーヒーが飲めて、お湯が沸かせる。そういう事で十分なのです。

このように考えていくと、ヨットにはあまり物が無くなる。それらは故障の心配も無い。それでい
て美しく、セーリングが面白く、何と気軽、気楽な事でしょう。

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