第五十九話 手造り

今や手造りなんて物はなかなかありません。この大量生産大量消費の時代に
あって、手造りは貴重であり、高級で、高価です。でも、何故手造りが良いのか
機械で作れば安くできる。その中にあって、手造りは貴重でもある。でも、何故
そんな高価な物を買うのだろうか。

日常に使われる物は機械によって大量生産され、安く提供できる。これは良い
事でしょう。でも、人間というのは我侭なもので、合理性だけでは割り切れない
ものがあります。それに大量生産に向く物と向かない物がある。さしずめ、ヨット
は大量生産には向きません。世界一の生産量を誇る某社でも、年間2,500艇
程度しか建造していません。2,500万じゃありませんよ、2,500艇ですよ、
たったこれだけです。全世界でも2,3万程度ですよ。これじゃどう見ても大量
生産とは言えない。何故かと考えますと、需要が無いからでは無い、大量生産
向きでは無いからだと思います。

ハルの積層、構造上、材質上、余程画期的な工法でも発明されない限り、ヨット
は機械が入り込む余地はかなり少ないのです。それでどうするかというと、より
大量に建造する方法を考えます。まず構造を簡素化して、できるだけモールドを
造って、FRPでできるだけ作る。そして組み立ての手間をできるだけ簡素化する
木工のニスだって、機械であっという間にニス塗装ができるのがあります。機械
が導入できる所は機械を使う。でも、積層というのは機械ではできないので、積層
の工程をできるだけ削る。そうゆう努力をしています。

でも、この機械生産に向かない商品をできるだけ機械に頼った工法を取るのと、
手造りとでは、やはり手造りの方が良いのができる。でも高い。

手造りというのは、誰でもできません。職人しかできない。そして工賃の高い職人
は雇うのにも高級を支払わなければならない。でも、彼らがした仕事はやはり良い
何が良いかって、きれいだし、長持ちするし、ヨットはこうあるべきという考え方も
ちゃんと反映されている。最高のヨットはカスタム以外には無いと言われる所以
です。ところが、カスタムが良いと言われても、高いので話にもならないという事に
なります。そこで、考えますと、できるだけ職人さんの手造りが入ったヨット、その
割合ですね。完全手造りでは手が出ないものの、できるだけという事で、その割合
を下げれば、だんだん手の届く範囲に入ってくるものも出てくるでしょう。それが
私が言う年間建造艇数です。

国民性で、イタリア人はどうこう、ドイツ人はどうだとか一般的に思われています。
しかしながら、一概には言えない。その証拠に、宇宙へだって行ってるし、電車も
動いている。パソコンだって、何だって、その国にちゃんと機能しているんですから。

昔、外資系の会社でサラリーマンをしていました。勤勉な国として知られた国です。
でも、その良い加減さ、日本人から見たいい加減さはがっかりしたものです。勤勉
と言いながら、5時少し前からみんな帰る準備をしてましたし、日本では考えられ
なかった。でも、物は素晴らしかった。国産の比では無かったです。職人さんと言わ
れる高度な技術を身につけた人達は、どこの国だろうが、素晴らしいんです。ただ、
そうで無い人達は自分達が作っている物に愛情が無いかもしれない。今度の週末
にどこ行こうとしか考えていないかもしれない。ここが日本とは違う。全ての部分に
高度な職人さんを使うのはカスタム艇だけでしょう。プロダクション艇にそんな事して
いたら、高価すぎて売れなくなってしまう。

そこで、職人さんにどこまでやってもらうかという事になります。それによって、構造
さえも変わってきます。積層ひとつとっても、素人に毛の生えたような人がする積層
と職人さんでは全く違うんです。同じ材質でもです。

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