第六十九話 需要と供給

需要があるから供給がある。当たり前の話ですが、逆に供給があって需要が造られる
というのもあるのか? 今のヨットは需要があるから供給があるのか、供給がるから、
需要がそうなってきたのか?

昔、朝シャンという言葉がありました。覚えておられる方々も多いと思いますが、若い
女性が朝シャンプーをするというものです。あの時、需要を創造したと言われ、広い
大きな洗面台とシャワーのように取り出しできる蛇口がついた。

でも、実際のところ、需要を創造したというより、時代の欲求が既にあったのではないか
そこを見極める事ができたメーカーが、それにあわせて洗面台をつくったら当たったと
いうのが本当ではなかろうか。つまり、時代の流れは、ある方向があり、それにあわせて
いち早くリードしたメーカーなりが成功するのではなかろうか。全く需要の無い時に、ある
物を供給して、需要を創造するなんて事は無いのではなかろうか。

さて、ヨットの需要はどんなものだろうか。少なくとも、今のヨットの大多数があまり使われ
ていない現状からすると、このまま進んで行くとは思えません。何か、違う物への欲求が
あると思うのですが、具体的にまだその動きが出ていない状態かもしれません。

そこで当たっているかどうかは解りませんが、ヨットは、また昔のように乗るものとしての
セーリング重視が再び盛り返してくると勝手に思っています。昔と違うのは、クルーが居な
いという事です。昔はヨットに乗りたくて集まってくる若者がたくさん居ました。今では、そう
いう若者はどこかへ行ってしまった。40代、50代が若手と言われる時代です。20代、
30代がクルーとして大勢集まる頃、ヨットは活動的で、レースやって、むちゃもした。そうい
う時代でしたが、今はそんな時代ではなくなった。オーナーも年齢を重ね、昔のような事は
無い。それでセーリングからキャビン派に変化していく。丁度、ヨットもキャビン重視のヨット
が多くなっていきました。

大きなキャビンにしたのは良いのですが、クルーがどんどん減って、キャビンにして使うど
ころか、たまに酒飲むぐらいにしか使われない。毎週毎週酒飲んで宴会するのも飽きてく
るので、あまり動かなくなってきた。たまにセーリングに出るにしても、あまりエキサイティン
グでは無いどころか面倒くさい。そりゃ、当たり前、気持ちがそうなってる。

そこで、これは再びヨットはセーリングを本気で走る時代になる、そうならないとすたってし
まう。そう思って、これから乗るのに合うセーリングは何かと考えた時、レースでは無くても
昔のように本気で走る事、セーリングそのものを楽しむ事、腕を上げていく自分を楽しむ事
そして、クルー不足の時代にはシングルハンドか、せいぜいダブルハンドでスポーツ的に
自由自在にセーリングを楽しむ事、そういうのが良いと思いました。それで、そういうコンセ
プトに合うヨットを取り扱う事にしてきたわけです。また、従来のヨットでも、そういう乗り方を
する時に、ジェネカーのファーラーやジブブーム、セルフタッキングジブなどが、こういう乗り
方をサポートするのには良いと考えて、ご紹介してきました。当社のホームページの中でも
シングルハンド・デイセーリングのページを見に来られる方がやはり多いです。

流れはそうなっていくのか、或いは、これまでと同じ流れが続くのか、それは解りません。
でも、そう信じています。その方が体験上面白いからです。実際、これから先が、本当に
ヨットが日本に根付いていくスタートではないかと思います。一旦、ヨットは使われなくなった
そこで、もう一度ヨットというものを見直し、みんながどういうのが最も面白いのかを考え、
今度は自分のスタイルで、個性的に、再スタートする。これから先に花が咲く。ですから、
今の現状は必要な現象で、もう一度考える機会を与えられた。バブルも、今の現状も、ある
べき状態として経験してきたからこそ、この先に本当のヨットのスタートがある。そういう気が
します。ですから、みなさん一様では無く、自分のスタイルに応じた乗り方が自由にできる
時代、いろんなスタイルのヨットが入ってくる時代、文明開化ならぬ、ルネッサンスならぬ、
ヨット開花、本当の時代がやってくる。そう楽観的に思っています。いろんなスタイルのうち
のひとつとしてシングルハンド、デイセーリング、スポーツセーリングがあると思っています。
年寄りに今更スポーツセーリングなんて、と言われる業者がおられる。年寄りにはもっと
落ち着きのある、いかにもクルージングタイプで、のんびりゆったり走れる物、そういうのが
良いなんていう方もおられます。でも、昔と違って皆さん若いし、ただのんびりするなら、ヨット
である必要も無いし、もっともっと活動的な方が良いと私は思うのですが。緩急の使い分け、
緩だけでは無く、急だけでも無く、バランスよく使い分けてはどうかと思います。スポーツカー
なんか、若者が乗るより、熟年の方が乗る方が絶対似合ってる。そう思います。ヨット界は
60代が主役、最も面白いエキサイティングな年代にしましょう。

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