第二十六話 マニアック

マニアックとは、一般的で無い、凝った物、人という印象です。では、一般的とは、ヨットで言うなら今マリーナで最もたくさん見かけるヨットです。一般的なヨットで、一般的な使われ方を見ますと、使っていない、動いていないというのが一般的な使い方です。でも、一般的で無い、マニアックと思われるかもしれないが、そういうマイナーな存在の方が楽しんでいるというのはこれいかに?

一般的かマニアックかという定義はどうでも良いのですが、要は楽しんでるか、楽しんで無いかです。楽しんで無いのが一般的なら、一般的になるという事は面白く無い事です。これが、ヨットが何かの役に立つ物なら、それでも運用されます。楽しい物では無いにしても、役に立つものなら動く。
でも、ヨットは役に立つ、仕事をする物では無いだけに、ただ係留され、放置され、そこにあるだけです。こんな物が、これから先、この一般的といわれる状態で持続するはずが無い。そのうち、ヨットなんて面白くないので、他の物、もっと面白い物に移っていく事は目に見えてます。

現代はインスタント時代です。何でも手っ取り早く結果を得る。スイッチポンの時代です。車もオートマチックの時代、世界のどこにでもスピーディーに行けて、インターネットの時代です。ヨットはというと全くこれに反している。スイッチポンで最高のセーリングが堪能できるという物では無い。だからめんどうくさい。とりあえず簡単にできる事をする。でも、その簡単な事、インスタント的な事は全くエキサイティングでは無い。便利が面白いわけでは無い。

こういう時代だからこそ、スポーツが流行る。自分で体を動かす。或いは、プロスポーツを観戦してその素晴らしい技術に浸る。そこに感動が生まれる。プロ選手はマニアックな連中です。何故かマニアックと呼ぶ人は居ませんが、間違いなく彼らはマニアックです。便利な時代、スピーディーな時代だからこそ、人が体を動かし、技術を高め、生身の人間がする事だからこそ感動を呼ぶ。

結局、ヨットはこのインスタント時代に逆らう物で、スイッチポンでは動かない。動いても、堪能するにはそれなりの意識と自分の動きが必要です。逆に、自分がそれなりに動くからこそ、感動が生まれる。例え、スイッチポンで素晴らしい走りをしたとしても、何の感動も生まれないでしょう。自分で工夫したり、いろんな事をして、その結果が感動を生む。つまり、プロセスが大切なのです。これをする人がマニアックで、しない人は一般的なら、みんなマニアックになった方が良いという事になります。追求すればする程、面白くなるのがヨットです。そして、みんながマニアックになったら、これが今度は一般的になります。一般的になると、さらに追求する連中が出てくる。今度は、彼らがマニアックと呼ばれます。

ヨットなんて、どんなにマニアックになろうが、その時代の相対的な呼び名に過ぎないし、ましてヨットにマニアックになったからと言って、マイナスは何も無い。何故なら、ヨットは極めて個人的であり、役に立たない乗り物であり、純粋に遊びであるからです。失敗しないようにと、回りを見ながら、一般的になるのは無難かもしれないが、その無難は一般的というベールで失敗では無いと思わせながら、実は失敗です。それがみんなわかってきている。それじゃ、どうすれば良いか?簡単です。自分の本音に正直にマニアックになれば良い。一般的では無いかもしれないが、本音で楽しめる。そして、そうしたからと言って、誰にも迷惑かけないし、自分が面白ければ良いわけです。
実に我侭です。でも、何故それで良いかと言いますと、ヨットはヨットとしての存在以外、何にも役に立たないからです。どんなに一般的でも、どんなにマニアックでも、ヨットはヨット以上の何物でも無い。ならば、楽しい方が良い。それだけが基準です。マニアックである事さえ意識する必要は無い。どうせ、こうやって自分ひとり楽しんでいたら、そのうち時代が変化して、それが一般的になります。そんなもんです。時代の変化です。例えは悪いかもしれませんが、ちょっと前から茶髪が流行ってきた。私も違和感を持った一人です。でも、今ではそんなのは珍しくも何でも無い。自分が最も楽しい自分であろうとする行為、それがマニアックだろうが、一般的だろうが、どうでも良い事です。茶髪はまだ社会に存在するだけに社会に関わっています。でも、ヨットはそうでは無い。誰がどんなヨットで、どんな風に乗ると、誰にも迷惑をかける事は無い。極めて個人的です。回りを気にしている間に、あっという間に時間がすぎてしまいます。ヨットほど自分のスタイルを我侭にして良い遊び物は他に無い。マニアックといわれる事を恐れては、自分を心から遊べなくなります。どうせ、マニアックと呼ぶ人は一般的な人達です。彼らは楽しくないから、羨ましそうにマニアックですねと言う。本当は自分もそうしたいのです。でも、今のところ、ヨットに本当にマニアックな物は無い。他の分野と同じ、ちょっとスタイルの違う物がある。せいぜいその程度です。ちょっとしたバリエーションに過ぎない。もっともっと選択の幅を持ったらどうでしょうか?

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