第四十話 井の中の蛙

誰もが知るこのことわざ、”井の中の蛙大海を知らず”、いましめの言葉として使われます。しかしながらこれには続きがあって、”されど空の青さを知る”という言葉があります。確かに大海は知らないが、そこに居てこそ気づく、空の青さや高さ、そういう事に気づく事ができる。大海に居ては、空を見上げる事もないかもしれない。いましめの言葉ではあるが、同時にそれも悪くない。そういう気がします。

大海と言えば、ナビゲーションを熟知し、荒天時の対応に優れ、あらゆる状況に対応できる技術と精神力を持つ。そこまでは無いにしても、どこまで遠くへ行った事があるかが、良いとされる基準のような感じがする。九州一周するより、日本一周、日本一周より太平洋横断、それより世界一周、それより単独、それより無寄港、どんどん大海は広がる。でも、近場に居てこそ知る事がある。それでも良いじゃないか、と思います。近場だろうが、遠くだろうが、ヨットの楽しさを感じれば、どんなでも良い、自分なりで良いと思います。まして、それを生業としているわけではありませんから。

それで、遠くを目指す方はそれで良いとして、私個人的には井の中の蛙を自称し、その井戸の中をもっっともっと楽しむ方法を考えます。井戸の中の方が気楽ですし、荒天になってもちょっと我慢すれば帰れるし、それより、ヨットの持つ最大の特徴であるセーリングを堪能し続ける事ができる。

またまた、美しいヨットを紹介しましょう。


このクラシックなライン、とっても美しいデイセーラーです。長さは31フィートあります。キャビンはいたってシンプル、両サイドにシートがあって、トイレがある。それだけです。反面艤装に関しては充実、カーボンマスト、セルフタッキングファーリングジブ、全てのロープ類はデッキの下を通って
コクピットの二つのウィンチにリードされています。

船底を見ると、クラシックとは思えないですね。欧米はデイセーリングに目覚めた。でも、従来のヨットでは物足らない。クラシックな美しさは世界共通、小さいけれど誰もが一目を置く美しさがある。
それで、さらに帆走性能を高め、スポーツとし、セーリングを堪能する、シングルも可能にする、そういう考え方が増えてきた。

残念なのは、高価である事です。ただ、我々が知るプロダクション艇を基準にするなら、その他はみんな高いという事にはなります。大海は知らずとも、こういう美しいヨットで、セーリングができたら、それはもう最高じゃないかと思います。

大きなヨットに乗る方々は、小さなヨットなんか乗る気がしないかもしれませんが、井の中の蛙であっても、そのセーリングを知る。という事はできる。気軽さを知るという事ができる。スピード感を知る事はできる。シングルの自由自在を知る事はできる。

大海を知らず、井戸の中もあまり知らないのでは、何も味わえません。世界はどんどん進んでいます。それを追いかける必要はありませんが、どこかで、自分なりのスタイルで、大海ならずとも、井戸の中でも堪能する事によって、そこに居るからこそ解る何かもある。その前に、堪能する事、その前に楽しむ事、そしてその前に使う事、そういう事から始まるのではないかと思います。

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