第四十七話 告白

当社で納めましたヨットに重大なトラブルが発生し、オーナーには大変ご迷惑をおかけしました。事の起こりは、オーナーがある朝、マリーナに行かれましたところ、船内は水浸し、昨日は何事も無くヨットを後にし、翌日は大変な事になっていました。当初は原因が解らなかったのですが、原因はエンジンの冷却水に設置したエアーベントにありました。

エンジンが海面より高い位置にある場合は良いのですが、低い位置にある場合、エンジンの冷却水がエンジン稼動時にはインペラで吸い上げられ、エンジンを冷却し、排水されますが、エンジン停止時に、サイフォン現象によって、エンジンは停止しているものの、冷却水は流れ続け、通常通りエンジンに入り、排水管に溜まっていきます。エンジンが動いてないものですから、ここにどんどん溜まり、今度は逆に、排気ガス管を通じてエンジンに入っていきます。これでエンジンを駄目にしてしまいます。さらに進むとエアー吸入からキャビン内にたまっていく。そういう事を防ぐ為に、冷却水にエアーベントを設置しています。

このエアーベントはエンジン稼動時は弁が閉じ、エンジンが停止した時点で弁が開きます。つまり、
エンジン停止時に便が開いて、ここからエアーが入り、サイフォン現象を起こさせないという理屈です。ただ、エンジン始動前は弁が開いており、エンジンを始動させた瞬間、弁が閉まる瞬間、この開いた弁から少し海水が出てくる。これがエンジンにかかって錆びの原因になるので、この弁に細いホースを繋いで、エンジンにかからないようにしました。

これからは推測になりますが、エンジン稼動時に、弁にゴミとか何らかの原因でエンジンが稼動しているにもかかわらず、この弁が完全には閉まらずに、ここから海水が漏れていたのではないか、
そして、ホースを通じて下に流れ続けていたのではないかと思われます。このホースが下に長すぎ
海面よりも下にまで伸びていた為、エンジン停止時にサイフォン現象が起こり、このエアーベントに設置したホースに対してサイフォン現象が起こったのではないか、エンジンは停止していますから、弁は開いてますから、かなりの量の海水が船内に入っていったのではないかと推測しています。あくまで推測なので、断定はできないのですが。

このサイフォン現象は必ず発生するとは限らないのですが、ある業者の方は、こういうエアーベントを設置しているヨットは無いと言われ、必要無いとも言われています。実際に設置されていないヨットもあります。エンジンが海面より高ければこういう事は発生しませんが、低いケースが多いですので、やはり設置した方が良いと思うのですが、今回のようなトラブルは私の無知のせいでした。ホースを海面より高い位置でカットしておくべきだったか、或いは、ホースを船外に出すべきだったかと思います。必要無いという方もおられるので、今後、検討したうえで、どうするか決める事になります。

業界に18年居ますが、まだまだ知らない事が多く、また配慮も不足していた事を感じます。オーナーには大変ご迷惑をおかけしました。今回の件は、それぞれの方々が考えて頂くきっかけになればと思い書いています。これらの他にもたくさんの知らない事があると思います。ひとつひとつが学びになると、あらためて思い知らされました。

次へ      目次へ