第七十三話 外洋艇
シングルハンドとデイセーリングの事をかなり書いてきましたが、全ての方々に合うというわけでは無い事は百も承知です。ただ、多くのヨットが乗られずに係留されっぱなしですので、それを打開するにはデイセーリングを見直すという考え方です。 さて、このデイセーリングの反対にあるのが外洋です。当社でも欧米の外洋艇を扱っておりますが、この外洋艇について考えたいと思います。 外海と言いますと、波が荒いと思いますが、外洋とはまた違うものだと思います。外洋は沿岸とは違い、何日も上陸せずに走る本格的なロングを走る。何日も走り続けるというのは、根本的に沿岸とは状況が異なりますので、ヨットもそれなりのものが要求されます。 まず、船体が頑丈である事。これは言うまでもありませんが、頑丈とは何をさすのかです。サイズが大きければ外洋艇かと言いますと、そうはいかないでしょう。時化た中で何日も命を預けるわけですから、頼りないヨットでは困ります。 昔は、ヨットは外洋性を持つべきと考えていたのでしょう。古いヨットはハルが厚く、その分重かった。でも、近年では、誰もが外洋に行くどころか、行く方が少ないので、沿岸用とか湖用とかも作られてきています。その分、軽く、価格的にも有利に建造する事ができる。 船体を強く作るにはFRPの積層を厚くするのが最も手っ取り早い。特に台湾なんかで建造されたヨットのハルは非常に船体が厚い。従って、非常に重いです。積層するというのは手間がかかるもので、その点、人件費の安い地域での建造は有利なのかもしれません。但し、樹脂の使い方においては温度や湿度の管理が充分になされ、余分な樹脂を取り除く作業、積層間からエアーを取り除く作業が必要で、これは職人の仕事、パートタイマーで出来る仕事ではありません。 昔、某造船所で建造されたヨットですが、積層間に剥離が見られました。こうなるとトータルでは厚いかもしれませんが、強度は落ちてしまう。つまり、工場の環境整備、温度湿度の管理、職人の腕が揃う必要がある。 強度を確保する為に、厚くすると重くなりすぎるという事から、サンドイッチ構造というのが造られ、今では多くの造船所が採用しています。バルサ材やエアーレックスなどの化学素材などをコア材として内側と外側にFRPを積層する。これによって、厚みをつけながら、重量を軽減するという目的に使われます。この時重要なのは、コア材とグラス積層の接着です。へたするとここにが剥離してしまう事になりかねません。実際、そういうのが良くあった。今日使われる方法はバキュームバッグをかぶせて、内部のエアーを吸出し真空状態を造って、気圧で押し付ける方法です。 次に、ハル内部に設置するストリンガー。補強の骨みたいなもんです。沿岸用なんかでは、ストリンガーをモールドで成型して、ハルの内側に設置、これにグラスをラミネートせずに、パテで接着しているのも少なくありません。でも、これが剥がれますと補強の意味が全くなくなる。実際、そういう艇も少なく無い。グラスでラミネートする。しかもできるだけ広範囲にした方が剥がれないのは当然です。もっと良いのは、ストリンガーを1本1本造って、それを全て積層する方法です。これは手間がかかりますが、強度としては最もあると思います。ただ、キャビンの床の水平を出すのに技術がいりますし、この点、モールドで成型すると簡単な作業になる。 さて、お次はバルクヘッドやキャビン内の家具類です。これもパテでデッキとハルに接着してあるものもあれば、きちんと積層してあるものもある。もちろん、積層した方が良いです。でも、手間がかかる事は言うまでもありません。それにヨットによっては、家具類も全て船底に積層してあるヨットもあります。そうなってくると強度という事では非常に強くなる。しかも、重量には関係無いわけですから良いわけですが、手間がかかるという事はコストがかかるという事になります。 つまり、外洋性のあるヨットにおいて、船体強度をどこまで強くするかは造船所次第ですが、それによってコストが違ってきます。ヨットは長い間、波にもまれ、マストを立てているリギンで、常に、引っ張られ、ストレスを受けています。それで、弱いヨットは窓にクラックが入ったり、ハルとデッキの接合部から水が漏れてきたりする。ねじれてよがんでくる。ですから、そうならないように強く造る。 強いだけは昔の話で、強くしかも、あまり重くなり過ぎないように造る。それが今の外洋艇です。これだけでもコストがかかってくるのは当然の事になってきますね。同じサイズでも造り方が違うのです。最も安いヨットと高いヨット、同じサイズでも3倍ぐらいのコスト差が出ます。もちろん、材質も違えば、工法も違う。それで強度も違う。どこまで求めるかの違いになります。 例え外洋艇で無くても、少なくとも、ストリンガーは船底に積層してもらいたいし、バルクヘッドも積層してもらいたい。パテでは持ちません。 頼りになるヨットは見た目でも違いが解りますし、時 化た時程、その差が出るものです。ヨットがオーナ ーを助けてくれます。まあ、高価ですから、それぐら いはしてもらわないといけませんが。 海に出るのはちょっとした冒険です。外洋に出るの は大きな冒険ですが、冒険は安全には充分配慮す る必要がある。 |