第七十七話　セール

セールに揚力を発生させる為に、セールに風を流すわけですが、風向に対してどういう角度で、どういうセール形状を持たせるか、そしてジブとメインのコンビネーションを造ることになります。

風がまずはセールのラフに当たる。そこから、風上と風下に別れ、風下側の風の流れがどういうわけか速くなる。良くセールエンドで同時にに合流すると説明されていますが、これは間違い。同時には合流しない。が、しかし、膨らんだ風下側の流れが速くなる事は事実で、流速が速くなれば、圧が下がり風上側との圧力差が生まれ、そこに揚力が発生する。つまり、風を流す、きれいに流す必要があります。

この揚力を最大限引き出すには、このセールの膨らみ、ドラフトを大きくすればより大きくなるという事になりますが、そうはとんやがおろさず、深すぎるドラフトは、風がその頂点を過ぎて急激に乱れてしまうので、大きすぎるのは宜しく無い事になります。また、このドラフトの深さは、風のスピードによっても異なり、風のスピードが遅いとドラフトを深くでき、スピードが上がるとドラフトを浅くしていかなければなりません。風の乱流を起こさず、きれいに流れるドラフトの深さを見つける必要があります。また、この揚力は推進力のみならず、横流れを起こさせる力にもなりますので、大きな揚力は必ずしも大歓迎というわけにはいかない。適度なヒールで、それで最も効率の良いドラフトの深さを造る必要がでてきます。

まずは、セールをきちんと上げる。ラフに縦皺、横皺が出ないようにハリヤードを引きます。セールには自然にドラフトができるように作られています。セールのラフは直線では無く、カーブしています。このカーブをラフローチと言い、真っ直ぐなマストに設置されると、セールの方がカーブしているので自然にドラフトができるようになっています。それでバックステーアジャスターを少しづつ引いて
いって、このラフローチと同じカーブになった時、セールはフラットになるという事になります。どの程度のドラフトかは、厳密に言えば、セールメーカーと話合って造るべきですが、そこまでは必要ないでしょう。とにかく、マストをベントさせればセールのドラフトは浅くなる。また、フット側を引くアウトホールも引けばセールを浅くします。つまり、ドラフトの深さを調整するには、バックステーアジャスターの出し入れ、アウトホールの出し入れで行う。（フラッターやカニンガムはほとんどクルージング艇には無いので記載しません。また、ラフローチは上部だけでは無く、下部にもあります。つまり、
この下部の形状にそってマストが曲がると、ここもフラットになる。では、下部はどうやって曲げるか
ですが、バングを使います。バングを引くと、ブームがマスト側に押される。これによってマストを曲げる事ができます。でも、まあ、ここまで考えなくても良いでしょう。

今度はドラフトの位置です。揚力はドラフト頂点においてセールに直角に発生する。という事はその直角に当たる線ができるだけ前よりに発生した方が良い事になります。仮に船体の真横から風が吹いてきて、セールを一杯引き込んで風に直角になるとすると、揚力は船体の横に対して働くので推進力にはならない。（実際はこの場合は帆掛け舟の押す力ですが）それで、シートを少し緩めて、セールを出すと、セールに直角に発生する揚力が前側に移動していきます。これが前進力になる。もっと出すと前進の力がもっと増える。それでどんどん出していきますと、今度はセールに風がきれいに流れなくなる。揚力が発生しなくなる。揚力がセールに対して直角に働くならば、揚力ができるだけ前進の力にする為には、セールはできるだけ出した方が良い事になります。でも、風向によって風がきれいに流れないと話にならないので、きれいに流れる限りという事になります。

このドラフトの位置はセールの前後方向に対して、後ろ側にあったら、揚力の発生する角度としては良くないですね。できるだけ前進力にしたいわけですから、前側にあった方が良い。でも、前過ぎると今度は風の乱れを起こしてくる。通常、中央より少し前側にドラフトの頂点を設定するのが良いとされています。このドラフトの位置、前後移動はハリヤードで行います。引けばドラフトは前側に移動し、緩めれば後ろに移動します。この時、ドラフトの深さは殆ど変わらない。通常はあまり無いですが、ヨットによってはカニンガムを持っているヨットがあります。ハリヤードを引いてドラフトを前にやると、同時にリーチ側にもテンションがかかって、リーチが閉じる事になります。でも、カニンガムはリーチ側に何ら影響を与えずに、ラフにテンションを加えられます。

セールを風向に対して、どの角度で出せば良いか？そしてドラフトの深さはどの程度か？そして、位置をどの位置にしたら、最も風がきれに流れて、揚力をうまく利用できるか？船体のバランスもあります。これだけでも、結構な謎解きです。ひとつづつ解明していってはどうでしょう。セールはジェノアもありますので、そのコンビネーションも出てきます。ひとつ解ってうまくなり、またひとつ解ってうまくなる。ひとつひとつのステップが面白くなります。何故、こうなんだ？と思う時、きっとその答えを知りたくなるはずです。それが面白い。ヨットはそういうゲームだと思います。そして、グッドフィーリングが生まれる。

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