第44話 造船所の策略

現在売られている一般的なヨットには、それこそ何でも標準で付いている。至れり尽せり。
昔はそれこそ最低限の装備だけが標準でした。自分で必要な装備を選択するというやり
方です。それが、大手造船所は付加価値を付け、競争に勝つ為に装備を増やしてきた。
ジブファーラーが標準となり、冷蔵庫、プレッシャーウォーター、温水、コクピットシャワー、
ガスオーブン等々、全て標準仕様、さらに、キャビンは天井を高く、幅は広く、快適な居住
性をアピール、そして我々は完全にそれに慣れてしまった。あたりまえと思ってしまった。
最近ではメインセールのファーラーまでもが、しかも小型サイズに選択可能となってきている。
かく言う私も、これにのってきた。                                  

近くのマリーナにすごくりっぱなヨットが係留されています。上記は全て装備され、エンジン
ドライブのエアコン、デッキにはきれいなチークが張られており、コクピットドジャー、ビミニト
ップも装備、素晴らしいヨットです。このヨットにはきれいなチークを守る為にフルカバーが常に
かけられています。

しかし、しかしです。私はこのヨットが一度も出ているのを見た事が無いのです。ただの一度も
ありません。私が知らない間に出た事もあるかもしれませんが、私が知っている限り一度も無
い。商売柄、かなり頻繁にマリーナには顔を出しています。それでも無いのです。一体どうなっ
ているんだ。これは極端な例かもしれませんが、他にも同じような艇はたくさんあります。例外
では無いのです。例外どころか、その方が多いという事実は何を物語るのか。         

オーナーは購入を検討する時、夢を持っていたでしょう。あれも付けたい、これも便利、どうせな
ら何でも付けておきたい。そしたら、遠くへクルージングに行く時に良いし、大勢乗っても対応でき
る。夢はどんどん膨らみ、予算が許す限り、素晴らしいヨットが出来あがります。パネルには多く
のブレーカースイッチが所狭しと並び、このヨットの装備が一目瞭然で解ります。しかし、我々が
これに慣れてしまった、今では当然付いているのがあたりまえという意識が植え付けられてしま
った。ここに、問題があるのではないか、と最近はつくづく思うのです。               


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