第53話 引退後の人生

私の知り合いの方ですが、現役の頃は、それはすごいパワーの持ち主でした。
常にエネルギッシュで、行動派、言う事もする事もすごいパワーを感じました。
ところが、この方は引退したとたんに、まるで別人のようになってしまった。よくある
燃え尽き症候群とでも言うんでしょうか。パワーは小さくなり、すっかり変わってしま
った。よく聞く話でもあります。

人間は何の為に生きているのか、と考えさせられてしまいます。仕事が人生の全て
では無いと解ってはいても、男にとって仕事は大切、それが生きがいにもなります。
きっと、この人は素晴らしい仕事を成してこられたと思います。ところが、人生は引退
では終わらない。これから約20年ぐらい続くのです。引退を境に気持ちを切り替える
事は簡単では無い。でも、人生は続く。

引退したらしたい事をするぞ。趣味をする。普通皆さんが考える事です。でも、考えて
みれば、これまで朝早くから夜遅くまでしていた仕事の穴埋めを趣味で補うには、なか
なか難しい。それも毎日です。昔、城山三郎でしたか、毎日が日曜日なんて小説があり
ましたが、それが現実になると、そう簡単な事では無い。

こういう方にこそヨットをお奨めしたいですね。健康の為にテニスやハイキングをする、なんて
消極的な活動では,過去何十年の穴埋めはできない。何かに挑戦して,極めようという所まで
意識を高めてはどうでしょう。会社命令ならやりますね、こういう方は、でも自分で自分に命令
するのですから、これは大変な意思の強さが要ります。だから、穴埋めができるのではない
でしょうか。仕事なら未知の事でも挑戦してきたはず、ところが、引退した途端に情熱が無くな
ってしまう。要は情熱の問題でしょう。その情熱を仕事から何か別の挑戦へと切り替える必要
があります。

そこでヨットが登場するわけですが、ヨットをただ優雅だとか、気持ちよさそうだとか思わないで
頂きたい。確かに、そういう面もあるでしょう。でも、それだけならヨットの深みは解らないし、ま
して、情熱などさほど必要は無い。これは、他の遊びと同じ、表面上の快楽の域でしかありま
せん。ヨットには緊張も危険もある。真剣になればなる程、深みもある。

何故、仕事は何十年も続けられたのか。食う為だけではなかったと思います。そこには緊張が
あった。緊張と緩和があった。努力も必要だったし、苦しい事も、それゆえ、喜びもあった。あら
ゆる事も極めたいと思えばそうでしょうが、ヨットは自分一人でも、相手がいなくてもできる。今度
は人間相手では無く、自然を相手にしてはどうでしょうか。仕事は事に仕えると書きますが、今度
は自然に仕えてはどうでしょう。


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