第七十三話 セール角度

セールを出す角度は、風の方向とヨットの進行方向、これらの成す角度の半分の角度で出す。こう本にも書かれています。真横(90度)から風が吹いているなら、セールは反対舷に、艇中央から
45度の角度で出すという事になります。

上りの時は、風の力はヨットが進行しようとする前方側から吹いてくる。つまり同じ風力なら、前方へ走らせる力は少なく、横流れの力が大きい。それをキールや船体で食い止めて、前方へ走る。
前方からの風のせいで、顔に当たる風速のせいで、いかにも速さを感じはします。

真横からの風の時には、セールを45度出す。これはどう考えても、かぜは前方では無く、横に回りますから、セールに当たる風の角度を考えますと、揚力はセールに対して直角に働きますから、
前進の力は大きくなりますから、当然スピードも上りより速くなります。

さらに、風が後ろに回って、セールをもっと出すと、揚力に加えて、風が後部から来ますので、ヨットを押す力も加わる。さらに後ろに回ると、揚力の力が減少して、押す力の方に頼りますので、今度はスピードは落ちてくる。

もちろん、ダウンウィンドではジェノアは使えないし、どうかとは思いますが、多分スピンを使わずに、ジェノアがきれいに開けるならば、そうなるのではないかと思います。

つまり、風向に対して、効率の良い角度がある。ところが、強風になってきますと、その角度のままではヨットのスタビリティーが耐えられなくなる。従って、風を逃がす事になります。風を逃がす時、シートを出します。するとセールの角度が変わる。出せば、風上側のリボンがばたつきます。もっと出すと、風下側のリボンもばたつく。そしてセールがばたつく。本当は、風に対する角度を変えずに、風を逃がす方が効率は良い。ジェノアならリードブロックを後ろに下げる。メインなら、シートを出して、ブロックを風上側に引き上げる。上部の角度は変わりますが、下部は角度を維持する。もちろん、その前にセールをフラットにしますが、その後です。

ところが、クルージング艇のジブトラックには、シートで前後にブロックを調整する艤装はほとんど無いので、面倒なのでシートを出す。メインはシートを出して、シートブロックを風上に引きあがるのは簡単なので、そうする。でも、大きなジェノア、小さなメインでは、やはりジェノアを調整したくなります。理想的には両方を調整したいが、シングルの場合、強風の場合などは、少ししんどい。

そうなりますと、シングルの場合は、風向に対する角度をキープしながら、風の取り入れ量を調整するには、小さなジブに大きなメインの方がやり易いという事になります。この際、小さなジブはリードブロックの位置調整は諦めて、シートの出し入れで対応し、大きなメインの方が影響力がありますから、シートとブロックの左右で調整を細かにやる。

ダブルハンドの場合はどうにでもなります。ひとりがバウにだって行ける。でもシングルはそうはいきません。舵を片手に、全部やります。それにブローが入った時でもジブシートを出すのはすぐにはできません。でも、メインは、それがコクピットにあるならばですが、瞬間的対応ができます。

という事は、シングルとして乗り易い艤装は、小さなジブに大きなメインのフラクショナルリグで、ジブシートはコクピットにあって、ワンタッチで出し入れができる。メインのトラックもブロックが左右にすぐに移動できる。こういうのが良さそうです。強風になりますと、メインシートもカムクリートに食い込んですぐにはリリースできないかもしれません。そんな場合は、足で蹴飛ばすか、微調整用のシートをブロックでテークルを組んで2重にするかです。

シングルハンドコンセプトのヨットは、やはりそういう所が良く考えられています。シングルでどういう風に扱うかが考えられています。ですから、そういうコンセプトのヨットは艤装の仕方が共通してますね。あくまでセーリングを遊ぶという観点です。

通常のクルージング艇は、ブームが短めで、メインシートはコクピットでは無く、入口の横、ウィンチを介してストッパー留め。メインセールは小さい。コクピットの邪魔にならないように。その代わり、ジブを大きめにしています。最近で多いのは130%ぐらいでしょうか。これで同じ事をしようと思うと、やはり影響力の大きい、ジェノアを扱います。風を逃がすには、ジブのリードブロックを下げる。コントロールがついている場合はそれでやれますが、逆にブロックを前側に移動させたい時は、ウィンチで引く。そうすると、ジブシートを一旦、ウィンチから解いて、ターニングブロックについているであろうストッパーで止め、リードブロックの調整をウィンチにかけて回す。そしてまた、ジブシートウィンチに巻いてという事になり、ひとりでやるにはちょっとめんどうです。メインの方は、手が届かないし、ストッパーをはずさなければならないし、やっぱりシングルには向かない。それに引く時はウィンチを回す必要がある。やっぱりシングル向きでは無い。

シングルには、小さなジブに大きなメインで、メインセールを主として調整を遊ぶ方が、オートパイロットも使わないで、舵を持ったままできる方が、ずっと面白いのではないかと思います。もちろん、バックステーのアジャスターやバングにも届いた方が良い事はいうまでもありません。

シングルの場合は通常とは違って、いろいろ検討する事が必要になりますが、それが面白いんです。おまけに、ジブが小さいと、ジブシートを引くのにも、ウィンチハンドを回す必要の無い場面が多くなり、自分の手で引いて調整ができる。まして、前に紹介いたしましたジブシートのシステムですと力が2分の1になりますから、いっそう楽になる。いろんな方法を検討していただきたいと思います。それでダウンウィンドの場合は、ジェネカーファーラーが今のところベストではないかと思います。或いはジブブームですね。

微風から強風まで、できるだけ楽に、ですから強風でも走れる。シングルの面白さはここにあると思います。

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