第八十話 新しい遊び方
| 新しい時代には新しい遊び方が出現してきます。それではこれまでの遊び方は何だったのか、という事になりますが、クルージングという言葉は殆ど旅と同意語でありました。つまり、ヨットを手に入れて、いつかあの島を目指す。その旅こそがクルージングであり、それこそが、ヨット遊びの醍醐味として言われていたと思います。つまり、それ以外は、あまり重要視していなかったのでは無いでしょうか？いつかは、あそこに行ってみたい！ 雑誌を見れば、各地方のクルージングレポートがあり、日本一周した人の特集があり、いつも、いつかは俺もと思わせる。それこそが、クルージング派の夢であり、もっと遠くへ行く事がヨットマンの証であるかのように。 遊びには誰でもできる遊びとできない遊びがあります。本来なら、誰でもすぐにできる遊びが主となり、それが濃縮されていきますと、その中からもっと分化していきます。旅はヨットさえあれば誰でもできるかと言いますと、それは少し違うようです。たっぷりとした時間が必要です。でも、何故か、ヨットと旅が先に結びついてしまいました。それで、素直にヨットを見てみますと、そこには誰でもヨットさえあればできる遊びがあります。 全てのヨットにセールがあります。大きかろうと小さかろうと、豪華でも質素でも、最低限、船体とセールはある。そして、必ずどこかの水に浮かぶ。ならば、すぐに、誰でもできる事は、その場でセーリングする事だという事が解ります。そのセーリングを楽しむ事こそがまずは最初です。 もちろん、誰もがセーリングを楽しんだでしょう。でも、レースじゃないからという理由で、それ以上先へは進みませんでした。すぐにヨットは旅を目指す事になっていきます。しかし、旅を目指し、目的地を持った途端に、ヨットはめったに動かなくなった。旅を目指しても良いのですが、セーリングをしなくなった事が問題です。 さて、新しい遊びは、何も特別な事では無く、セーリングを見直す事です。基本に戻るという事から始まります。欧米では、多くのベテランヨットマンが旅からセーリングに乗り換えています。もっと気楽にセーリングを楽しむ事へ進んでいます。そのセーリングもとりあえず行きたい所へ行けるというセーリングから、いかにセーリングするか、それはいかに楽しみながらセーリングするかへ移行しています。 ところで、現代は便利を重視する社会です。便利に慣れた現代人は不便を嫌います。そこで、セーリングを考えますと、便利であり、面白く、誰でもできなければなりません。誰でもできるんですが、やれば奥が深く、上達する事によって、さらにもっと面白さを得られるものでなければなりません。 誰でもできて、深さが無いと幼稚さを感じさせます。大人を満足させる面白さ、深さが必要です。 マリーナから出航して、セールを上げます。簡単に出来なければなりません。スライダーが引っかかったり、セールが重過ぎてあげるのに苦労したりするのは良くない。必要なら、スムースに上がるスライダーにしたり、電動ウィンチを使う。ファーリングジブを展開する。セーリングのスタートです。ここまですぐに、簡単にスムースにできる事が必要です。セーリング始める前にもたついたのでは面白くありませんから、必要なら何でも装備して、ここまでは躊躇無く簡単でなければなりません。 そして、ここから先がお楽しみです。今までのセーリングと違うところは、いかにセーリングをするかです。そして、それをどう楽しむのかが重要です。その為の操作自体は簡単に、便利に、誰でもできる。しかし、これから先はオーナー次第になります。テーマは簡単操作で最高のセーリングを感じる事にあります。簡単にセールを展開できる。簡単にシート類の出し入れができる。簡単にメインシートトラベラーやジブトラックの調整ができる。バックステーアジャスター、バング、リーフ、カニンガム、これらが簡単に操作できる事が必要です。 操作は簡単ですから、これから先は学んだ知識で、自分の腕とのコンビネーションでセーリングを開始します。誰でもできます。但し、自分のレベルですから、うまくなる事によって、もっと面白くなる。操作は簡単、しかし、頭脳は使う。セールカーブ、セールアングル、ツウィスト、ドラフトの深さと位置、舵の取り方、スムースなタッキングとジャイビング、電動でも油圧でも何でも使って、操作自体は簡単にし、そのうえで、知的ゲームを展開する。うまくピタッといけば、最高のセールフィーリングを得る事ができます。それを遊びます。こうして、ああして、風と波に合わせて走る。出る度に風も波も違います。 欧米では既に旅からセーリングにシフトしてきています。セーリングのレベルを上げる事はレーサーのする事、そうやってセーリングはしにくいが大きなキャビンと大きなエンジンを求めてきました。エアコンや温水を求めてきました。しかし、それらが面白いわけではありません。行為が面白いものでなければなりません。それで、ヨットを見直して、セーリングがし易い艤装と配置、それを優先して、レーサーのお株であったセーリングを、気軽に、簡単に、楽にしようという事です。レーティングも関係ありません。クルーの心配も要らない。純粋にセーリングして、腕がどんどん上がって、スイスイ自由自在になったらどんなに面白いだろうか。 その為に便利艤装をして、強靭な船体を求め、高い安定性を求めています。それによって絶大な信頼をヨットの寄せ、思う存分セーリングを知的ゲームとして楽しむ。それがこれからの古くても新しい遊び方です。 釣りでもボーリングでもテニスでも、誰でも簡単にできます。でも、やれば腕の差もあれば、深さもある。やればやるだけうまくもなるし、うまくなればそれだけ深い味わいもある。遊びはこうでなくてはいけません。へたでも楽しめるけれども、うまいならもっと面白くなる。 それが新しい欧米でのデイセーラーの流れかと思います。ひとりで簡単に出せて、簡単にセール展開できて、そして知的ゲームを存分に試し、その結果の帆走を感じる。時に最高の快走を得る事もあります。それは自分の知識を動員して得た勝利感、何とも言えません。大物を釣り上げた感覚と同じであります。 かくて、新しい時代の新しい遊びは、クルージング派による簡単操作の最高のセーリングにあります。これこそ、誰でも出来て、いつでも出来て、どこでも出来る。それでいて、求める深さはそれぞれですからみんな一様ではありません。大の大人を唸らせるには知性を刺激する深さが必要ですし、そのご褒美として、最高のセールフィーリングが必要です。そして、それを実行していくには、それを求めるとそれに反するものを我慢しなければなりません。その潔さが必要ですし、それがカッコイイのです。 |