第十四話 原点

もう十何年も前の話ですが、当時、53フィートをダブルハンドでデイセーリングをしょっちゅうやっていた時期がありました。暇だったんです。でも、それが今日の原点になっています。一日に午前と午後と二回出す事もありましたし、もうしょっちゅうでした。それが面白くてたまらなかったからです。それまではデイセーリングという意識もありませんでした。

この大きさですから、当然ながら全てパワーアシストです。二人ですからね。すると、強風時においても、実に楽にウィンチ操作ができるので、細かく操作をする事ができましたし、第一、しんどいから操作しなくてもいいやとか言う気持ちも生まれませんでした。だから、いろいろ操作をちょこちょこやって、その面白さを堪能できたと言えると思います。

当時、53フィートに、良くふたりで乗るね、とか言われましたが、全く問題無かった。順番にやれば良かった。レースにも参加しましたし、スピンだって上げる事ができました。もちろん、二人ですから効率は悪い。もっとクルーが居れば、もっと素早くやれたかもしれません。でも、そんな事は全く気になりません。この大きさをふたりで自由自在に操る、そこが面白さの一つでもあったわけです。

でかいヨットをいかにダブルで自由自在に操船するか? 或は、小さなヨットで、いかにでかいヨットを追い抜いていくか? そんな事を考えたりもしました。

でかいヨットでしたから、キャビンも広かった。エアコンもありました。でも、泊まったのは、2回ぐらいかな〜。備え付けのギャレーなんかは一度も使った事が無い。コーヒーを飲むぐらいでしたから、いつも持ち込みのカセットコンロ、こっちの方が使いやすかった。でも、セーリングの方はしょっちゅうやってました。オーナーの奥さんや友人が来られた時はピクニックでしたから、舵を握って頂いて、その感じを味わって頂き、こちらはサポートです。

ところで、、キールをズズズーっと何かに当ててしまった事があります。何しろ、吃水は3.4mだったかな?かなり深かった。しばらくはそこに囚われの身でしたが、何とかそこから抜け出して、その後、何だか変だと気づきます。オーナーも同様に互の目が合う。それで、すぐにマリーナに戻って上架したところ、案の定、キールの最下部に細かい傷がたくさん入っている。鉛だったので、サンディングで調整して、再び船底塗装してすぐ終わりましたが、周りからは、たったこれだけの傷で、良く解ったね〜と感心されたものです。自慢ではありません。事実です。否、ちょっと自慢かな?我々の感覚として、相当ひどいのではないかと思ったので、すぐに上架したわけですが、意外と傷は浅かった。そして、修理後にすぐにセーリングしてみましが、とっても滑らかでした。

多分、何度も乗っているうちに、感覚が自然に鋭敏になっていたのだろうと思います。だから、二人ともすぐに気がつく事ができた。ヨットは風や波からいろんな影響を受けて、さらに操作の方からも影響を受けて、いろんな動きをしているのかもしれません。しかし、それらにどれだけ気がつく事ができるかです。もちろん、ヨットによっては鈍いものもある。でも、少なくとも、自分が鋭くなればなるほどに、いろんな変化に気付く事ができる。それが面白さには必要だろうと思います。

53フィートもあったのですが、遠くに行くでも無く、クルージングは二回だけ。後は全部デイセーリングでした。まあ、贅沢なデイセーラーだったな〜。オーナーは時折、オートパイロットを使って、ひとりでも出していた。でも、やっぱりオーパイ任せでは面白くなかった。やっぱり二人は必要ですね。ひとりでやるなら、デイセーラーが最高です。

ここから私のデイセーラー詣でが始まります。今でも、それは間違い無かったと思っています。ピクニックもそれなりに楽しいので、時々は良いんですが、そればかりでは面白さに欠けます。だから、誰でも、真剣にセーリングするようになれば、きっとその面白さに気づき、そして、自分の腕や知識ばかりか、感覚さえも洗練されていく。それがいつか解る時が来る。この面白さを是非味わって頂きたいと思います。

ただ、風が良い時だけ偶然に快走を楽しむというより、試行錯誤して、工夫して、学んで、スポーツして、自ら快走を創りだすという方法を模索していく処に面白さはきっとあると思います。

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