第十五話 ノウハウの蓄積

経験やノウハウは蓄積されていきます。頭脳で覚えた知識は、時が経つ事によって忘れさられてしまう事がありますが、体で覚えたノウハウは忘れません。ですから、知識を得て、それを体で覚える事がノウハウの蓄積になる。

ヨットのノウハウは、他の事では役に立たない。それでも良いじゃないですか。無駄なノウハウかもしれないが、何かに精通できるなんて、こんな素晴らしい事は無い。仕事だけが人生じゃ無いんですから。少なくとも人生には潤いを与えます。もうこれで十分であります。

鋭い感覚を養い、鋭い観察力を得、集中力を持つ。直接的では無いかもしれないが、セーリングで得た感性は、案外、いろんな処で発揮されるかもしれません。だから、本当は無駄では無い。
仮に本当に無駄であっても、それでも良いと思いますね。何しろ、面白い時間、グッドフィーリングをたくさん味わえるわけですから。

人生は行動とそこに費やす時間との両方があります。時間に対する行動の価値を生産性という経済的表し方もありますが、その同じ時間により面白さやグッドフィーリングをより多く味わうと、それは生産性が高いという事になります。時間は誰でも平等に与えられますが、この生産性は人によって違います。そして、時間が経てば経つほどに蓄積されていきますから、とてつも無く大きな差を生み出す事になります。

充実した人生とか、幸福感とか、それらはその時の瞬間によって、感じる事もあるとは思いますが、長い年月においては、やはり、この生産性が高いかどうかにかかっていくのかなと思います。生産性という経済用語は、この場合似合わないのですが、解りやすいので、こう言いましたが、生産性イコール充実感なのでありますね。

真剣に取り組んで試行錯誤しても、そのノウハウが正しいのかという事もあります。そこで、考えるべきは、科学的な試行錯誤と、それに対する自分のフィーリングとの両方を見ていく事が必要ではなかろうかと思います。何故なら、遊びだからであります。上手くなる為には、科学的でなければならない。しかし、やってるのは人間で、これは遊びだから、フィーリングも大切。速ければ良いというもんじゃないという事です。ハイスピードを目指して一生懸命頑張ったら、科学的アプローチとしては正しいかもしれないが、もし、あんなに頑張るのはもう嫌だと思ったとしたら、生産性としては低いと見るべきだろうと思います。単純には決めつけられませんが。

そうすると、科学的に培われたノウハウと感覚的に得たノウハウの両方が蓄積されていきます。
科学は明快であり、感覚はファジー。この両方とその関連が蓄積される。すると、科学と感覚は必ずしも一致しない事がある。科学は再現性のある結果を出しますが、感覚は必ずしもそうでは無く、その結果を得たプロセスに重要性を置く。ある結果を得るにインスタント的に得たのと、いろんな工夫をして得たのとでは、同じ結果でも、面白さが違います。感覚的には別ものです。

すると、自分の面白さがどこにあるのかが解るようになって、偶然では無く、それを意図的に創る事ができるかもしれません。そうなっていきますと、科学的には、これが効率的であると解ったうえで、敢えて違う手法をとってみるとか、故意に、非効率な方法を取ってみるとかするかもしれません。それが遊び心ではないでしょうか? それが出てきたら、また面白いですね。真剣にやるというのは、何もいつも生真面目にやるというのとは違います。いかに遊び心を発揮して、面白さを演出するか? それには真剣味も必要かと思います。真剣に遊ぶとは、最高の面白さではないでしょうか? ふざけて遊ぶのは、全然違います。遊び心は科学的アプローチを知っていなければならない。そのうえで、自分のレベルが上がれば上がる程に、遊び心が発揮できるのではないでしょうか?

ノウハウの蓄積は、遊びに深みをもたらす事になるかと思います。

次へ       目次へ