第十五話 舵の意思

セーリングの面白さは、確かにヨットの性能とか、レスポンスとかにも大きく影響されると思いますが、その他にも重要な要因があると思います。ヨットの性能は外部的要因ですが、これとは別に内部的要因もあると思います。

最大の内部的要因は舵の意思であります。舵が意思を持つわけではありませんから、オーナーの意思であはりますが。舵は適当に真っ直ぐ走る、適当に曲がる、という事ができます。まあ、ピクニックならそれも良いとは思いますが、これとは別に、きっちりした意思の基で、真っ直ぐや曲がるを舵に伝えていく事が重要ではないかと思います。

真っ直ぐ走るという意思を持ちましたら、それこそ適当では無く、きっちり、できるだけ真っ直ぐでなければなりません。きっちりとした意思の基ではそうなるはずです。そして、曲がるとなると、どれだけ曲がるかもきっちり意識しなければなりません。そして、何故曲がるのかもです。

この舵の意思は、ヨット全体に対する絶対命令なのであります。オーナーが下した命令です。それにみんな従えよという命令です。その命令を自分が下し、それを明確に意識しているからこそ、その違いも明確に解ってくる。何しろ、命令には意図がありますから。意図ある命令には、その変化を感じ取りやすい。

その舵の方向で、針路が決まり、当然ながら、その時の風向と風速が決まりますから、セールの角度や形状をそれに合わせて調整する事になります。厳密に言えば、走る角度がちょっと変われば、セールも変えなければならないわけです。だから、舵は真っ直ぐと言ったら真っ直ぐ、極力真っ直ぐなのであります。

適当に走る目標物を決めましょう。あの山のてっぺんの方角でも良いし、ブイがあればそれでもでも良いし、コンパスの何度でも良い。その決めた角度が、直接狙えるのなら、兎に角ひたすらできるだけ真っ直ぐ走らせます。風向が変わろうと、風速が変わろうと、舵の意思は目標物に向かって真っ直ぐですから、もし、風向や風速が変化したら、セールを調整して、それに合わせます。目標物が変わるまで、舵の意思は変えません。

目標物の方角が上りで、ヨットが走れないデッドゾーンの角度にあるなら、右からのアプローチが有利か、左からの方が有利かで、どっちかを選択し、これまた真っ直ぐ走らせる。これは上り、角度稼ぎですから、風向が変化し、有利な方向に変化するなら、そのまま風向変化に合わせて、上らせる。不利な方向へ風向が変化したら、目標物に対して左右のアプローチが不利になるまでは風向にあわせて舵を取り、完全不利と判断したら、タックをする。

舵の意思を明確にしたら、走り全体が明確になっていきます。意識的なセーリングになっていきます。だから、自分がこれらの事を十分理解して走らせると、面白さが出てくるだろうと思います。適当に走って何ノット出たという事以外にも、ヨットをきっちり理解して、システマチックに走らせるという、ちょっと玄人的な遊びも楽しむ事ができる。これも面白さの幅を広げる事になるんだろうと思います。

これはレースの時に誰もが行う走らせ方ですが、それを単独セーリングでやっても良いんだろうと思います。これは意識だけの問題ですから、難しいわけじゃないし、走らせ方が明確になっていくので、自分の中でもそのシステマチックなセーリングが育っていき、ちょっと走り方が変わるのではなかろうかと思うのですが。みんな知っている事なんでしょうが、普段は案外やらないのではなかろうか?

これをきっかけに、タッキングアングルが分かったり、セール調整だって、よりきっちりできるようになるのではないでしょうか? これは面倒くさいかそうでは無いかでは無く、そういう遊び方をするかどうかなのであります。面白さを得たいなら、それ相応の事をしなければならない。そう思います。たいした事せずに得られた面白さは、本当は一時的な楽しさだったんだろうと思います。楽しさと面白さは全然ちがうものだろうと思います。面白さとは、楽しさよりも、もっと深いものだろうと思います。長年やり続ける秘訣は、この面白さをいかに手に入れるかではないでしょうか?

それには、意識的セーリングをして、試行錯誤を繰り返す事が必要なのではなかろうかと思います。そうすれば、何が違うか、どうしていけば良いか、そういう事が徐々に解ってきて。、その解る事が面白さになって、確実に上達していくのではないかと思います。

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