第七十五話 キャビン

30フィート前後のデイセーラーのキャビンを覗いて見ますと、だいたい共通な事は、天井が低い。
重心を下げる為だし、それにキャビンで長時間過ごす想定はありません。入れば、座る。座れば、何の問題も無い。それにギャレーなんかあるのもあれば無いのもある。無い方が多いです。だから、ちょっとした事には、カセットコンロを持ち込みます。清水だって、ペットボトルの水で十分。
何しろ、船内で料理なんかしません。せいぜいお湯を沸かす程度。

でも、トイレは必要。多くの方々はそのトイレさえ殆ど使わない。でも、万一を考えると、あった方が良い。海外では、簡易トイレといいますか、ポータブルトイレや、バケツを利用するというのもあるんですが、やはりその後の処理を考えますと、いくら使わないと言っても、通常のマリントイレが欲しい。そして、それを隠す為のカーテン。一部では個室トイレとしているのもあります。

入れば、シートがあって、そこは昼寝をする事もできる。そして、バウにVバース。それだけです。でも、デイセーリングには十分。必要最低限のシンプルな装備。だからこそ、メンテナンスも軽減されます。考えてみたら、冷蔵庫や温水やシャワーなんて要るだろうか?

それより、重心が低く造られた船体の方が、セーリングにとっては有難いと思う次第です。そのうえに、バラストは重く、バラスト比で言えば、だいたい40%前後から50%前後はあります。それはセール面積との対比によって違ってきますが、重いバラストをぶら下げる事によってセーリングの安定性を高め、その分、船体を軽く、しかも強固にしなければなりません。そこが技術の要る処です。

よって、多くのデイセーラーはサンドイッチ構造と、それを強固にする為に、バキューム/インフュージョン工法をとっています。樹脂のグラスに対する浸透とその割合を微妙にコントロールできる技術が必要で、その結果、軽く、強固な船体を造る事ができる。よって、バラストを重くできる。バラストを軽くすると、その分、排水量をもっと軽くできますが、そこはシングルハンドですから、そういうわけにはいきません。クルーの体重で起こすという事は前提に無いわけですから。

さらに、強固な船体は、セーリングに対して、実に滑らかさを感じさせます。これが気持ちが良いんですね。そこに加速感を感じたりすると、セーリングの面白さが湧いてきます。

という事で、デイセーラーのキャビンは、セーリング第一ですから、キャビンはシンプルで良いという事になります。船内はワンルーム、バウとの仕切りのドアは無い。でも、十分ではないでしょうか?

結局、キャビンはセーリングに対して反対側のポジションに居て、キャビンを快適にすればする程、セーリング性能が削がれ、それで、セーリングを求めれば、極端なヨットでは32フィートのデイセーラーでキャビン無しという、突き詰めればそういうヨットもあります。しかし、これは極端な例ですから、そこまで行く事は難しい。逆に、ヨットを旅の手段として使い、それもロングになればなる程、快適なキャビンが欲しくなる。そして、ロングになればなるほど、セーリング性能を問わなくなる。
つまり、デイセーリングではキャビンをあまり使わないので、その分セーリングを高めた方が面白いし、旅がロングになればなるほど、セーリング性能よりキャビンが重視される。短期と長期の使い方の違いになるかと思います。ですから、デイセーラーはシンプルだし、むしろシンプルの方が良いと思います。その分、セーリングを遊べます。

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