第三十話 パフォーマンス

あっちも、こっちもハイパフォーマンス。この言葉は、宣伝文句として良く使われますし、私も良く使います。しかし、ハイとはどの程度なのかは解らない。曖昧な表現です。それで、何回も書きましたが、このパフォーマンスを表す言葉として、セール面積/排水量比と言ってきました。

私は造船所がセーリングを重視していて、造りの品質さえ良ければ、そして見た目のデザインさえ気に入れば、このセール面積/排水量比を見れば、だいたい、そのヨットが解るし、さらに、自分が求める性能を、過去の経験から知っているなら、尚更、想像が出来るかと思います。

デイセーラーならシングルハンド仕様だし、その数値において、シングル前提を考えて、様々な要素が組み合わされています。バラスト重量もそうだし、そのキールのデザインもそうですし、船体の強度も同様です。また、セールの組み合わせ、リーフのやり方、艤装の配置等々が考えられています。つまり、バランスされています。

重い、遅いヨットに、細くて深いキールを設置する造船所は居ない。逆に、速いヨットに前後に長いキールは設置しない。造船所は、そのコンセプトに合わせて、全体をバランスさせます。そうなると、キールのデザインを見ただけでも、そのヨットの様相が解ってくる。

それで、このデータでは解らない事が二つ。ひとつは安定性です。強風になったとき、どの程度まで踏ん張る事ができるのか?これがヨットによって、違ってきます。すぐに大きくヒールしてしまうのか、それはクルーの体重で起こすのか? 或は、高い安定性を持つのか? もうひとつは、その船体の強度です。これはパフォーマンスにかかってきますし、乗り心地のスムース感にも影響を与えます。

安定性は、そのヨットの幅でもって持たせるフォームスタビリティーなんかも、最近では言われますから、必ずしもバラスト重量だけが重要なのでは無いとされます。このフォームスタビリテイーとか言われますと解らないですね。幅だけじゃないし、そのヨットの重心位置が高いか低いかにも寄ります。従って、経験から判断しなければなりません。或は、造船所が造る全体のヨットから判断する。

また、船体強度も同様で、こういう素材で、こういう造りとか聞いても、実際、それがどの程度なのか?これも、造船所が造るヨット全体から判断していく事になるかと思います。

しかし、造船所がどういうヨットを造り出し、セーリングをどの程度重視しているかどうか? それ次第だろうと思います。ただ、ひとつ言える事は、造船所が、セーリングを重視すればする程、そこにコストがかかる。よって、価格は高くなる。セーリングを重視すれば、それなりの構造とか工法が要求されます。モールドでポンポンと型抜きすれば良いわけじゃ無い。

これまで見たヨットの中で、最高にセーリング重視のヨットは、船体はもちろん、内装家具に至るまで、サンドイッチ構造で、バキューム/インフージョン工法をとっていました。それだけ排水量を軽くする為です。そして、重いバラスト。一般的にはそこまでする必要は無いのでしょうが、いわゆるコンセプトの違いです。

どういうパフォーマンスをヨットに持たせるか? セーリングを重視するか、しないか? それによって全体の造り方が違ってきます。ですから、使う側がどう考え、どれを選択するかが重要になります。選択幅は豊富にあるのですから。ボールは造船所から市場に投げられた。それもたくさんのボールです。そして、どのボールを受け取るか? オーナーの選択になります。だからこそ、自分のセーリングスタイルというものが重要になります。

パフォーマンスとは、様々あり、外洋艇としてのパフォーマンスから、本格レーサーのパフォーマンスまでいろいろです。要はそのパフォーマンスがコンセプトそのものになると思います。そのパフォーマンスはセール面積/排水量比でかなりの事が解ると思います。パフォーマンスとは、外洋艇のパフォーマンスもあれば、沿岸用クルージングのパフォーマンスもあるし、レーサーのパフォーマンスもあります。本当はハイとか言う曖昧な、イメージ的な言葉より、数値で見るべきかと思います。ハイかローかは別にしても、このヨットとあのヨットのセール面積/排水量比を比べると違いが解ると思います。

どういうわけか、このデータは重視されませんね。考えるに、ひとつの理由は、各ヨットに設定された標準仕様のセールがバランバラで、あるヨットはセルフタッキングジブだったり、また別のヨットはもっと大きなジェノアだったり、メインだって大きさはバラバラです。こんなバラバラな条件を比べるのは間違いという事も言えます。だから、本来は IJPEで比較すべきだと思いますが、これが必ずしも出ていないヨットもあります。

そこで、セール条件はバラバラだとしても、その標準設定セールで走るわけですから、それでの走りはどうかと比較しても良いんじゃないかと思います。デイセーラーはセルフタッキングジブですから、セール面積は小さくなる。他のヨットで、120%とか130%のジェノア艇と比較するのは、本来は間違いなのでしょうが、でも、現実にそのセールで走るわけですから、それで比較しても良いんではなかろうか?

もし、デイセーラー(95%ジブ)と沿岸用クルージング(例えば130%ジェノア)とが、同じセール面積/排水量比を持つならば、パフォーマンスは同じ(もちろん、他の要素もたくさんありますが)事になりますが、まず言える事は、小さなセールで同じパフォーマンスを達成できる方が扱い易いという事になります。

セーリングを楽しむとするなら、パフォーマンスこそが重要で、どんな走りをするのか? そこに、スタビリティーが高く、船体が強固なら、セーリングの高い質をも味わう事ができると思います。もちろん、比較の問題ですが。絶対は無く、あれより、これの方が良いとか、そういう比較をでしての判断になると思います。

あるヨットデザイナーは、最初に水線長を決めるとか聞いた事があります。もう、20年以上前の事です。私だったら、最初にセール面積/排水量比を決めて、どういうパフォーマンスをするかを決めて、そのうえで、スタビリティーを決めるかな。もちろん、コンセプトによるわけですが。この値は、前にも書きましたが、そのヨットのスポーツ性の度合いを示すと思います。低いスポーツ性が悪いのでは無く、そのヨットのセーリングは、スポーツ性とは違う何か別のコンセプトを持っている。外洋性とかです。それだけの事で、良い悪いでは無く、違うという事になると思います。

ただ、船体強度は、造船所次第になるかな。

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