第八話 FRPと木造

昔は木造艇ばかりでしたが、現在はFRPに取って変わられました。このFRPの良さは、メインテナンスが楽である事です。オーナーにとっては有難い。それに、まあ〜、長持ちします。どれだけ持つのか解らないぐらい持ちます。アメリカでFRP建造が開始されたのが、確か、1950年代、そのヨットがまだ現役だったりもします。それに、FRPはモールド(型)を必要としますが、このモールドさえ造れば、同じヨットを何艇も造る事ができますので、プロダクション艇に向いてます。ですから、これが主流になって当たり前ですね。

そのFRP建造も、技術は上がり、素材もどんどん良くなっています。昔は、FRPの強度が良く解らなかったせいか、木造艇と同じ厚みにした様な事も聞きます。結果、今から思えば重かった。その後、FRPの事が良く解ってきて、薄くなります。でも、強度は充分。ですから、排水量が軽くなって、良く走るようになる。製造技術も、職人によるハンドレイアップでした。中には素人みたいな人達を使って、安くしようなんて馬鹿な造船所も居ましたが、やっぱり職人じゃないといけません。剥離なんかもあったりします。その後、バキュームバッグ方式が出てきて、さらに、現在では、樹脂料のコントロールもできるようになりました。これで、繊維と樹脂の適切な配分が可能になりました。ですから、軽くも強度を高める事ができます。そして、使用樹脂も、ポリエステル、ビニルエステル、エポキシと発展。

一方、木造艇が衰退するばかりかと思っていたら、どっこい、結構盛んに造られています。日本では駄目ですが、海外では結構今でも盛んです。FRPはプロダクション向きです。ところが、カスタムで造るとか言う人が居て、その場合、木造なんかにすると、モールドは不要ですから、自由に造る事ができます。

そこで、カスタムで建造する方は多くは無いので、そういう造船所は、あるデザインを起こして、いくつかのモデルを建造し、それを元に販売しています。何々の50とか60とか。既に基本デザインはあるので、それを元にすれば、購入する側も検討し易い。木造の造船所は、完全カスタムかセミカスタムで勝負する。

その木造艇、100年以上前のヨットだって現役です。それに、現在の技術は進化し続けてきましたから、昔の木造艇よりもメインテナンスは楽です。ハルは木の繊維の方向性を45度違えて、三層にして、それもエポキシ樹脂で各層をカバー、さらに、最後の表皮にFRPを積層して、見た目はFRPと変わらない様にしています。これで、メインテナンスが楽になります。木造艇は、FRPより振動を吸収して、乗り味が良い。軽いし強いし、しかも、現在の技術ではWEST工法と呼ばれ、エポキシ樹脂を浸透させて、腐らないそうです。一般的には高級艇になりますね。超とも言えます。

そう言えば、数年前に007のジェームスボンドが載っていたヨットがありました。イギリス製で、スピリット54というヨットだったと思いますが、これは木造艇でした。前話でご紹介したフェアリー55といのも、実は木造です。とっても美しいです。

日本では、こういう木造艇を求める方々が殆どおられないので、日本における木造技術の伝承が危ぶまれるのは残念ですね。一端途絶えてしまうと、それを取り戻すには、かなり長い期間とエネルギーも要求されます。そう言えば、日本の神社仏閣は、ちゃんとその技術が受け継がれている様です。若い人達が、昔ながらに弟子入りしています。安心ですね。

ところが、日本のヨット界には、若い人達がなかなか増えない。これは造船では無く、使う側の事ですが、日本のヨット界は後10年たったらどうなっているのか? 何とかしなければとは思うのですが? 日本でも、木造艇が造れるようになる良いのですが、それどころの話じゃ無いですが。

FRPの量産艇が主流になるのは世界共通です。安いですから。でも、同じFRPでも質の高いヨットも売れてます。だからこそ、さらに木造とかでも造る人達が出てくるんでしょうね。彼らは、半端ないお金持ちなので。でも、彼らが、木造艇の技術を支えているとも言えます。彼らが居なくなれば、欧米も木造技術も失ってしまいます。

それで、最後に、ご予算に余裕がある方には、より高い品質のヨットをお求め頂きたいと思う次第です。木造とは言いませんが、FRPにもいろいろあります。高品質ですから、オーナーになって損は無いし、その価値が十分にあります。そして、そういう技術の伝承を支える事にもなります。まあ、日本では造船所がどんどん消えて来ましたから、今更支えるという事にはならないかもしれませんが、少なくとも、乗り手側の立場としても、今、我々が見ているヨットだけが全てではないという事、世界にはいろんなヨットがあるという事、安くて、見栄えが良ければ良いというだけではない事、品質が少しでも高ければ、それだけセーリングは違ってきます。より高い質のセーリングも味わって頂きたいと思います。そういうマーケットに育っていけば本物のヨット文化として、将来の日本に定着する。何も、みんながみんなヨットに乗れとは言いません。小さなマーケットであっても、成熟した文化へと育っていけばと思う次第です。良い物を知るという事は、そこの遊びだけにとどまらないと思います。しかし、そこに経済合理性はありません。だから難しい。しかし、合理性外の処に、本当の価値がある。それを知り、どう考えるか? しかし、元々、ヨットなんて無駄な代物。そこから出発しているわけですから。合理性を突き詰めると、遊び自体が無駄になってしまう。それでは我々は人間では無く、ロボットになってしまう。何を愛でるかは、その人自体を表すのではないかと思います。

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