第二十三話 セーリング格差

   
   

もう十数年前ぐらいになりますが、ある方からメインシートトラベラーはどう使う?と聞かれた事があります。この方は既に九州一周、日本一周、その後も年に1,2回程度クルージングに出られ、一度出ると最低でも一か月以上の旅をされる方でした。いわゆるベテランのクルージング派の方です。

年齢を重ねてきたせいか、もう遠くに行く事は無いという事で、ローカルのクルージング艇で参加できるレースに参加、それで上の様な質問をされたわけです。その後、毎月一回行われるレースを楽しんでこられた。別に勝負に固執するでも無く、ただみんなと一緒に走る。それが楽しかったのだろうと思います。

さて、メインシートトラベラーは操作する事は簡単な事、でも、その意味を知らないとやる意味も無くなり、動機も無くなります。ジブシートトラックのジブのリードブロックを前後に動かす事も同じ、バックステーやバングも使わない。使うのはメインとジブのハリヤードと各シートのみ、それでも旅はできるのです。逆にそうだからこそ、他の艤装操作を覚える必要も無かった。まして、エンジンを使う事も多いわけです。

一方、レースを本気でやってる人達は非常に詳しい。しかも、微妙な操作もするわけです。この知識的、技術的格差はかなり大きいものがあります。そして、前述の方、自分がレースに参加するようになって初めて他の艤装を意識しだした。クルージング艇で勝てなくても、少しでも良い走りがしたい。他にもクルージング艇が参加しているわけです。追い越せなくても、もう少し良い走りができるかもしれない。

両者の格差は非常に大きい。でも、このベテランの方の様に、遠くに旅する時は兎も角、その他の近場でのセーリングの時、たとえレースに参加しなくても良い走りを味わいたいと思っても不思議では無い。なんやかんややって、もし少しでも走りが変わると面白く無いですか? またそれが解る自分にも嬉しさが沸きあがってくる。

それで、一般のクルージング派の方にも、旅一辺倒では無いでしょうから、近場でセーリングする時、ピクニックやスポーツをすると良いのではないでしょうか?もちろん、既に設置されている艤装で良い。カニンガムやバーバーホーラーとかそんな艤装を追加しようという必要は無く、今ある艤装をどう使うか、どういう時に使うか、それが解れば操作の動機になります。全てはロープを引くか出すかだけです。ただ、どの程度というのは常につきまといますので、それが経験から学んでいくという成長、進化になります。

近場をセーリングする時、バックステー、バング、トラベラー等を操作してみよう。どうすれば良いか、理屈を考える事が大事です。セーリングは何も勝つ為だけにあるわけじゃない。セーリングを味わう事自体が非日常の最たるものだと思います。それを少しづつ進化させていく事はもっと非日常を味わう事になります。セーリングに慣れてしまったら、それはもう非日常では無くなります。当たり前になります。ですから、これを進化させ続ける事で非日常を味わえる事になると思うのです。この軌道に乗ったら、退屈なんかする事は無いのではと思います。

近場ではピクニックとセーリング、そしてたまに遠くへの旅を楽しんで良い。普段セーリングしていると、その旅に対する感覚も少し違っていくのでは?普段のセーリングはピクニックにも旅にも良い影響を与えるかと思います。

ところで、上の写真は古い木造艇です。現代のヨットに比べて決して速くはない。でも、3人で、2,3時間気軽にスポーツセーリングして、きっと楽しいと思いますよ。


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