第三十五話 スーパーヨットは投資の世界

   
   

突然ながらスーパーヨットの話。まあ、単なる興味本意ですが、スーパーヨットも一般のヨットと同じ様に仕様を打合せして発注するのかと思っていましたが、実はそうでも無い様です。もちろん、同じようにされる方もおられるでしょうが、多くは違う様です。

当然ながら完全カスタムで建造されます。よって建造に入ってから艇にもよりますが3年とか5年とかの長い建造期間が必要ですし、建造前の仕様の打ちあわせなんかも入れるともっとかかります。一方、オーナー側はそんなに待てないよという方々も少なく無いどころかむしろその方が多い。5年も待ちたくないという方々の心境は察する事ができます。

という事で、販売業者はどうするかというと発注が無いにも拘わらず先に発注して建造開始するんですね。そういうスーパーヨット専門の販売をしている会社もいろいろあります。それで、仕様を決めて、恐らく経験からどういう仕様が良いかだいたい解っているのかもしれませんが、そして造船所に発注、同時に販売にもかけます。リスク高いですよね。もし売れ残ったら在庫になるわけですから。しかも、金額も半端ない。しかし、想像ですが、そういうビジネスに投資するという投資家が居るのかもしれません。きっと居ると思います。確かに新艇だけれど既に完成している艇も売りに出てますし、完成は翌年とか3〜5年後とか。私が見た範囲内でもそんなスーパーヨット/ボートが300艇以上売りに出ていました。ただ既に完成済という艇は非常に少なかった。それだけ売れてるという事でしょうね。この市場の大きさには驚かされます。そこに出ていた範囲では最小サイズは80フィートでした。

建造中で何年に完成予定とかで売りにでます。これなら長く待つ必要は無いという事になりますし、状況に寄っては仕様を少し変更する事も可能でしょう。最初から建造するより何年も早く手に入れる事ができる。お金持ちにとってその時間は貴重なのです。

そう言えば、スーパーヨットではありませんが2年程前にある造船所で建造中のカスタムヨット(上記写真)を建造中にオーナーに事故があってやむなく売却に出しましたが、結果的にヨーロッパで売れました。これも同じですね。これは意図したわけではありませんが、結果的にそういう事になったわけです。最初は売れるか心配だったのですが、ちゃんと売れました。そういうビジネスが既にあったというわけです。

これで解る事はプロダクション艇とは違ってカスタム艇というのは非常に長い時間と大きな労力がかかります。特に大型艇になればなる程大きなエネルギーを注がねばなりません。これはこれで楽しいものかもしれませんが、仕様が決ってからも何年も待つわけで、これはたまらん。この47フィートで実際に建造に取り掛かってから完成まで2年かかりました。打ちあわせ期間を加えると3年かな。大きなヨットならもっとかかります。そう言えばこのヨットのエージェントは他にも55フィートを建造していました。まだ売れてもいなかったわけですが、その意味が良く解りました。

という事でこんなビジネスが成立している欧米の市場は驚くべきものがあります。もう随分前の話ですが、あるスーパーヨット専門のブローカーの話では平均して月に一艇の割合で販売しているとか、一艇何十億というスーパーヨットをです。彼らの市場は世界中をターゲットにしています。スーパーヨットの建造は案外こういうパターンの方が多いのかもしれない。

ところで、あるエピソードを思い出しました。アメリカでの事ですが、かじき釣りなんかをするスポーツフィッシャーマンというボートがあります。そんなコンセプトのボートで有名なライボビッチという造船所がフロリダにありますが、あるお金持ちがこの造船所に発注した処、納期は5年かかると言われ、そんなに待てないこのお金持ち、何したかというとこの造船所ごと買収して自分のボートを一番に建造させた。それに怒った他のオーナーが次々に発注をキャンセルしたとか。その後この造船所は他に売却されました。こんな事も起こっているんですね。このボートはカスタム艇でしたが、スーパーヨットの部類ではありませんでしたが、それでもこんな事も起こっている。

カスタムのお客様が世界にはたくさんおられ、スーパーヨットの造船所がいくつもあり、そして販売するエージェントと多分そのビジネスに投資する(先発注の資金)投資家が居る。そんな構図かな?投資家はエージェントに資金を貸すのでは無く、スーパーヨットに資金を投入してエージェントが販売して儲けるという投資ビジネスという事かもしれません。スーパーヨットは投資の世界、全部とは言いませんが。


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