第六十話 基本的な考え方 

   
   

セーリングの基本的考え方は全体のバランスを取る事です。風の強さに対してセールで風を受けて、その風をもっと取り入れるか逃がすか、それを船体のスタビリティーと求める可能なスピードとバランスさせる。という事は、船体のスタビリティーは既にそのヨット独自のパフォーマンスとして決っています。船体の重心がどこにあるかになります。それに対してセールをどう調整するのかというバランス取りをする事になります。

そうやって見ていきますと、最も大きな調整はセール面積を小さくするか大きくするかが最も大きな影響力を与える事になり、それに比べるとセール形状の調整は比較の上では小さくなります。艇の安定性はその船体によって決定されていますが、でもセーリングはセールを使うわけですからセールを含めた安定性と考えるべきだと思います。つまり、船体の安定性が高かろうか低かろうが、セール面積が大きいか小さいかによって安定性は左右されるという事になります。

昔はバラスト比30%とか40%とかで考えていましたが、それはセール面積を含めての考え方ではありませんでした。バラスト比が30%やそれ以下だとしてもセール面積が小さければ安定性は高いという事になります。でも、一方ではパワー不足という事にもなります。ただ、そのヨット自体の安定性+フルセールでのセール面積として考え、パワーを抜く時はセールをリーフし、増やしたい時は第三のセール、ジェネカーやコードゼロ等を展開します。これでセール面積の加減をする事になります。

かと言っていつもセール面積を加減して走るわけでは無くそれは風の強さ次第になりますが、これは大雑把な調整と言えると思います。その前に繊細な調整をするわけで、そこでジブとメインのシート操作以外の艤装類の意味が出てきます。要はこれらは繊細な操作という事になります。それらを使ってパワーを抜くか加えるかを考える。

シート以外の艤装で操作するのはメインとジブのハリヤード、クリューアウトホール、ブームバング、バックステーアジャスター、カニンガム、ジェノアトラック、メインシートトラベラーという処でしょうか。これらは風をを取り入れるか逃がすかを調整するものです。ハリヤードはテンションをより強くすればセールのドラフトが前側に移動し、緩めればその逆となる。セール中央からやや前側ぐらいが効率が良くなります。アウトホールはテンションを上げてセールのドラフトを下げ、緩めてドラフトを深く、これはセール下部で上部側はバックステーを締めてセールをフラットに緩めて深くという事になります。そしてカニンガムはメインセールを下から引いてラフのテンションを上げてドラフトを前に、緩めて後ろにとハリヤードと同じ役目を持ちます。

ジェノアトラックはジブカーを前後に動かします。カーを前にやるとセールのリーチがより下側に引かれリーチが閉じていきフットは緩む、逆にカーを後部へ移動させるとフットのテンションが上がり、リーチは緩む。その中間を基本にフットとリーチが同等にテンションをかけてそこから前か後ろかをその時の風で判断します。その基本とはセールのラフの中間点からクリューに線を引いてその延長にシートが来てカーを通る位置にカーを設置、これが基本位置です。

メインシートトラベラーはシート操作をせずにカーを動かしてブームを左右に動かして角度を変える事ができます。シートを操作してもブーム角度を変える事はできますが、同時にブームは上下にも動きますから角度だけでは無くセールのリーチにも影響を与えます。状況次第ですが、角度をリーチの開きをどうしたいかによって使い分ける事になります。

さて、これまででも結構難しそうと思われたかもしれませんが、さらに、これらをひとつずつ分けて操作するのでは無く組み合わせて使う。それがとっても難しいわけです。すぐにマスターできるものではありません。それだけに少しずつ経験をしながら試行錯誤を繰り返して解明していくというゲームを何年も何年も遊ぶ事ができます。終わりが無いわけです。一生遊べます。セーリングは簡単なレベルでもセーリングを遊べますし、その同じヨットで複雑に繊細に走らせて楽しむ事もできます。それがセーリングが誰にでも楽しめるというおおらかさを持ち、一方で複雑で繊細な難しさも持つという面があります。どう遊ぶかはオーナー次第という事になりますが、ある程度慣れてきたら少しづつ複雑で繊細なセーリングゲームを楽しんで頂ければと思います。

何も全てを完全にマスターしなければという事は無く、いかなるレベルでも楽しめるわけで、どこまで行けるかという事も面白さの一つですから、皆さんにヨット遊びのひとつのテーマとして挑戦してみてはと思う次第です。もし、セーリングレベルを分けるなら、最初のレベル1でも、レベル2でも、5でも、6デモ、各レベルで自由自在を感じてセーリングを楽しみ、また次のレベルへと挑戦する。その都度のレベルで応じた知識と技術、さらに観察能力、感性が養われていきます。つまり同じヨット、同じ海域でも、オーナーはそれぞれ異なるレベルの面白さを感じているわけです。

近場の海域で初心者もベテランも楽しめるセーリング、遠いか近いかに上下はありません。ヨットに性能の上下はあり、乗り手にレベルの上下がある。但し、これはオーナーがどうしたいか次第なのです。これからの10年とか20年とかを考えますと、やっぱり簡単なだけでは物足りなくなると思います。ですから是非、次のステップへと進んで行って頂きたいと思います。


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