第六十一話 シート+1


   
ジブシートとメインシートだけでセーリングはできます。最も簡単なセーリング方法ですが、これにひとつ加えてみます。それだけでセーリングが結構理解できるようになれます。例えばバックステーアジャスターです。操作自体は単純でバックステーを後方に引けばマストトップが引かれて後ろに曲がり、緩めれば戻る。それだけなのですが、これに何の意味があるのか?

バックステーはメインセールのカーブの深さを調整できます。引けばカーブが浅くなり、緩めれば深くなる。このカーブは風を受けてカーブが大きい時はパワーを高め、浅くすればパワーを減じます。となれば強風時にはバックステーを引いて浅く、風が弱い時は緩めて少しでもパワーを高める。何故、そうなるかと言いますと、メインセールのラフは一直線では無く少しカーブして作られています。よってそのラフのカーブにマストを曲げてラフカーブに近づく程にセールのカーブ(深さ)は浅くなります。逆にバックステーを緩めて行けばマストが戻りカーブは深くなっていきます。

簡単に言えばこれだけなのですが、ここから派生していろんな事を考える事ができます。バックステーを引いてマストトップが引かれると同時にマストの中間部は前側に押されます。そうやってマスト全体のカーブを作るわけですが、この時サイドステーの下のインターミディエイトもがちがちにテンションをかけておくと、マスト中央部が前に行かなくなり綺麗なカーブが作れなくなります。という事はトップはしっかりと締めますが、中間部は少し緩めにする事という事が解ります。

また、セールのカーブが浅いか深いかで上る時の角度が違ってきます。浅い時は風向に対してかなり上れても、深くすると風向に対して同じ角度だとセールの裏側に風が当たってきてセールが揺れてきます。そこで舵で角度を落とす事になります。逆にセールを浅くするともっと角度的に上れる。でも、この時は十分な風の強さがある時です。パワーは風の強さとセールの深さで成り立ち、このバランスを取る事になります。つまり、風が強いからセールをフラットにして(バックステーを引いて)より上れて、でも、風が弱くなってきたらパワーを得る為にバックステーを緩めて深くし、その代わりに風向に対して上れる角度を少し落とす。

ただ、バックステーアジャスターはセールの上部側を調整し、下側はブームエンドから出ているアウトホールを引いて浅く、緩めて深くとやります。

ひとつの艤装は全て単純に引くか緩めるかだけの事なんですが、そこから派生して考えるといろんな事が解るようになります。そこで大事な事はその操作によって起こる変化に気づく事です。気づく為には意識がセーリングと共にあらねば解りません。何故ならその変化はセールをリーフしたりするのに比べて小さいからです。微調整と言っても良い。でも、その変化が解るときっと面白さが解ってきます。最初は集中してやりますが、そのうち慣れてきてすぐに感じられるようになれる。この小さな変化が実は馬鹿にならないのです。

面白さの原点は自分で操作してその変化が感じられるようになる事だと思います。バックステーアジャスターに限らず、どの艤装にも操作そのものの効果とそこから派生して考えられる効果があります。そこまで考えて気づけるようになると、もうやめられなくなるかも。これはピクニックとは次元の異なるセーリングです。そんな事をいとも簡単にやれるのがデイセーラーなのです。セーリングはパフォーマンスは重要ですが、もっと重要な事はその変化を感じ取れる感性で、それは意識がセーリングとともにあれば育っていくものだと思います。


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