第六十四話 ジェントルマンズヨット


     
そもそもこのヨットは大時化を何度も乗り越えてきた様な潮気の強いタフガイを想定しているわけではありません。強靭な体力や気力というより感性を重んじます。微妙な変化に対する僅かな変化でさえも感じ取って、その違いに面白さを感じる。スピード、操作、バランス等々様々な変化を楽しむ処にこのデイセーラーの特性があるのだと思います。

速いと言ってもレーサーではありませんし、そんなスピードを想定しているわけではありません。慌てず、騒がず、感覚に集中して頭脳も使って紳士の如く振る舞う?感覚と頭脳のゲームを楽しむという具合です。家族や友人達と、できれば彼女か彼氏と、さらに自分ひとりでセーリングゲームを楽しむ。となると半日でも十分楽しめると思います。集中して2、3時間程度は良い時間、その後はピクニックしても良い。ゆったりコーヒーでも飲みながらのセーリングも良いものだと思います。もちろん半日で切り上げても良い。忙しいからボートという方がおられますが、デイセーリングは忙しい方にもぴったりなのではないでしょうか。何しろ短時間でも面白いのですから。

慣れてきますと特に集中力を発揮しなくても普通に変化を感じれるようになります。美しいヨットを美しく走らせる。これがジェントルマンのヨットですね。何かを感じた時、実に気分が良いです。船体剛性が高く、波に負けない強靭さで真っすぐ走っている時でさえ滑らかさを感じ取る事ができる事があります。”何て滑らかな走りなんだろう” と感激する事もあります。これは乗り手の感性とヨットの質の高さによるものです。

このヨットはセルフタッキングジブではありませんが、ジブは105%ですのでタッキング時のセールの返しは容易なのですが、慣れてきますと舵を切るスピードとセールの返しのタイミングを合わせればウィンチを回すにはわずかで済むようにもなれます。その時のシートウィンチもステアリングポジションに近いですからすぐに手が届きます。電動にしても良いですけど。この絶妙な操作は解る人には解ります。

メインシートは標準では写真の様に左右のウィンチで操作しますが、これもウィンチは近い。また、オプションではありますが電動のキャプティブウィンチを後部デッキ下に設置すれば標準のメインシートウィンチは削除され、スイッチひとつでシートを引くだけでは無くリリースもボタンひとつとなります。どこまで電動化をするかは各人の好みではありますが、電動化にしなくてもシングルで行けます。

さらにブームバングもバックステーアジャスターも油圧にすればレバーの操作だけで両方をコントロールできますし、舵操作のポジションから殆ど動き回る必要も無い。もちろん、オートパイロットを使ってあれこれやっても良いのですが、このヨットは出来る限り自分で舵を握って操作をする処に面白さがあると思います。

欧米ではこういうヨットをジェントルマンズボート(ヨット)と呼んだりします。解る感じがしますね。カッコ良くスイスイ滑らかに走らせて、その感覚を遊ぶ。頭脳を使ってあれこれ操作してその変化を感じ取る。スポーツしても、ピクニックしてもちょっと上行く気分です。ゲストを迎えてもシングルでも自由自在感を遊ぶ。そんなヨット遊びをこの美しいクラシック感のヨットがさらに気分を盛り上げてくれる。遠くに旅するだけがヨット遊びではありません。近くだからこそ楽しめるヨット遊びもあります。近くだからこそ時化てきたらすぐに帰る事もできます。軟弱ななんちゃってセーリングではありません。これは繊細さを基調とした感覚を重んじるフィーリングヨットです。旅とレースに加えて、こういうスタイルがあっても良いと思います。もちろん、近距離なら旅も楽しめます。要はデイセーラー/ウィークエンダーは近距離用、クルージング艇は遠距離用と考えて良いかと思います。

多くのヨットオーナー達はこれまで遠くばかりを見てきました。しかし、すぐ目の前で面白いヨットライフを創造する事ができます。やり方次第です。これからは近場の海を意識してみては如何でしょうか?日常として非日常のヨットライフを手に入れる事ができます。


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